過去企画 | ナノ

!『花雪』


・・・何故こうなったのだろう。

栞は半ば現実逃避しながら目の前の光景―――池袋にとっては最早日常の一部としてみなされている、所謂戦争をただただ静観していた。


話は三十分前に遡る。
久々のオフに栞は兄の静雄と池袋のある店で軽く話していた。
仕事に差し支えの無い程度の現状報告も兼ねて。

「・・・そうか。お前の仕事量の多さは少しだが知ってたけどよ。
ちゃんとメシ食ってんのか?前会った時より痩せてるように見えるぞ?」
「・・・・・・そう?」

こてり、と小首を傾げる妹に静雄は軽く溜息をつく。

・・・そうだった。
この妹はとんと自分に無頓着というか大雑把な人間だった。
一人暮らしなんてやっていて大丈夫なのだろうか。
何か改めて考えると不安になってきた。


静雄は家族大事な性格なのでこのような思考は当然のことだったといえる。


「・・・あー・・・あのさ栞、」
「?」

静雄が妹に向かって何か言おうとしたとき。

「あれ・・・もしかして幽さんですか?」
「・・・ぇ」
「あ?」

突然現れた声に平和島兄妹は揃って何処か間の抜けた声を出す。
二人が声がした方向に揃って視線を向けると其処には、春を思い出すような少女が其処にいた。

「・・・・・・・・・七海さん?」
「は、はいっ!
やっぱり幽さんだったんですね・・・あ、すいませんお話中だったのにっ・・・!」

わたわたと焦り出す少女――七海春歌に栞は内心静雄が切れないか恐怖した。

兄さん、お願いだから早まらないでくれ―――!!


「?栞、知り合いか?」
「(あ、良かった大丈夫っぽい?)・・・うん、友人だよ」
「は、初めまして!七海春歌と申しま、(がちっ)――――ッ!!」
「だ、大丈夫か?」

不吉な音が春歌の口から出た気がした。
思わず静雄は春歌に安否を尋ねるが彼女はそれ所では無いようだ。

「・・・彼女は少し人見知りなんだよ、兄さん」
「・・・栞」
「だから初対面の兄さんに緊張しているだけだと思、」
「春歌!」

「・・・・・・・・・」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今度は誰だ。

栞は自身の台詞をぶった切った相手を見るため後ろに振り返る。

「・・・・・・・・・・・・」
「・・・誰だ?」


あれ、この少年は。

「春歌、こんなところにいたのか!
ってあれ・・・・・・。・・・・・・・・・は、はねじ、(ムグッ)」
「大声出すんじゃねぇよ、周りに迷惑だろうが・・・!」

現在の状況。
春歌の連れである来栖翔が栞達に近付いたまでは良い。
しかし外出用のショートヘアのウィッグに加え伊達眼鏡を着用している栞を看破する春歌と翔に内心栞は穏やかではなかったが。
そんな彼女の心情を知る由も無く、栞が芸能人の羽島幽と気付いた翔が大声で叫ぶ瞬間、静雄はその口を自身の掌で塞ぐ。

ぎりぎりと、静雄にとっては本当に少しの力なのだろうがそれでもやられている翔にとっては本気で痛そうな音が聞こえる。
その音が聞こえたのだろう、春歌は栞に縋るような視線を向けた。


「・・・・・・・・・」

うん。まあ・・・。
身内だし仕方ないよね・・・。

栞は内心ビクビクしながら兄の仲裁に入って数分後。
落ち着かせる事に成功した栞達は場所を移動する事にした。



  ♂♀



「あの、幽さん・・・」
「・・・僕の兄だよ」

とりあえず、一人称を仕事用に変えて対応する栞に静雄は言って良いのかと顔を少し歪めた。

「え、兄妹?」
「羽島幽と平和島静雄、さんが?」

翔が思わず静雄を呼び捨てで言おうとしたが、仮にも年上であることと先程の那月を上回る握力に慄いたのか、咄嗟にさん付けをした。
今の学園に入学してから確実に翔の中でトラウマが増えていっていることに翔は気付かないフリをする。
知らないって確かに幸せなこともあるのだ。

「おう・・・」
「分かってると思うけどこの事は内密にお願いします」

羽島幽はプロフィールその他一切が非公開とされている。
そんな中で『池袋最強』『自動喧嘩人形』と称される静雄と栞が兄妹とバレたら色々面倒臭いことになるのは火を見るより明らかだ。

「勿論です。絶対に話しません!ね、翔君!」
「お、おう・・・!」
「有難う」


二人の承諾も得られ、とりあえずこれで一安心したと栞は思った。
しかしまた別の人間の声が彼女の耳を捉えた瞬間、池袋の平穏は崩壊した。


「うわ、シズちゃん・・・」
「いぃぃざぁぁぁやぁぁぁ!!」


池袋は次の瞬間、戦争状態へと発展した。





そして冒頭へと至る。
本当に何でこうなったかな・・・。

栞は内心頭を抱えて春歌と翔と共に避難する。
もう慣れたものである。・・・慣れたくなかったけど。

「あの、これは一体・・・」
「が、学園長と砂月との戦いより怖くねぇか・・・?」

戦々恐々と目の前の事態を見つめる二人に何と言って良いか分からず栞は無言を貫くしかなかった。

 戦争コンビとの邂逅

5000hit企画第二弾は藍華様に捧げます!
藍華様のみお持ち帰り可能ですが低クオリティ・・・。
リク内容と添えてないのが分かるorz
一応if話です。本編と繋がっていないようにしています。

20120412