過去企画 | ナノ

・・・本当にするの?って聞きたかった。
だけどそれは声に出さずとも理解した。理解せざるを得なかった。

だって基本無表情が多い双子の兄の瞳がこれ以上無い位本気で輝いていたから。


「・・・・・・身長は・・・俺の場合ちょっと難しいけど栞はシークレットシューズで何とか誤魔化せるか。
髪の毛はウィッグをつけて・・・あ、後ルリさんに軽くメイクして貰おう」
「・・・ルリさんの手を借りてまでする事なの?幽君」
「当然。
やるからには徹底的に、だよ」

・・・最後の言葉がトキヤがよく使う台詞と似ている、と指摘したくなったが、そうするとこの兄はマントル以上に機嫌が急降下する事は理解していたので栞は敢えてしない事にした。



代わりに休む間もなく手を動かす幽に栞は小さく嘆息する。
幽が黙々と進めているのは所謂変装。
お互いが入れ替わり、他の人がそれに気付くかという言わばドッキリである。
最終標的は栞の恋人であるトキヤであることは栞も知っている。

幽曰く、自分達双子が見分けられなかったら恋人失格らしい。

・・・・・・私は気にしないんだけどな。
というより気付くと思う。否、思いたい。
幽も自分も容姿的に中性的であることは自覚しているが性差がある。

いくら中性的に見えても幽は男で自分は女。
体格や声等、いくらでもヒントは存在するのだ。
これで気付かなかったらヘコむ。
如何に自分に対して無頓着すぎると(不本意ながら)定評のある自分でも流石に男装だと気付かれなかったら落ち込むだろう・・・私だけじゃなく誰だって。
気にしないと思ったが前言撤回。気にするに一票。



「・・・よし準備出来た。
栞、此れ俺の服。後これと・・・」
「・・・・・・・・・」

幽の声に栞は無言で差し出されたモノを受け取ったのだった。



  ♂♀



・・・・・・うん、まぁ分かってたけど。

「・・・・・・ぱっと見、そっくりだなお前等」

ソファーに座って身長を誤魔化している幽と壁にもたれている栞の姿を見て双子の兄、静雄は感心した声を漏らす。
しかしそんな兄の感想は栞の心にグサリと突き刺さった。

・・・・・・分かってたけど複雑だ。
幽の事は兄妹として好きなのに。

・・・これが噂に聞くフクザツな乙女心という奴なのか。

栞の心境に気付かない幽はあまり気乗りしていない栞の手をとり、幽のファンが発狂する位レアな笑顔を浮かべて言い放った。

「兄貴がそう言ってくれるなら大丈夫かな。
・・・じゃあ栞、早速実験してみようか」


誰かこの兄を止めてー!!


心中で絶叫した栞の声は当然の如く誰にも届かなかった。



  ♂♀



所変わってST☆RISHのレンと音也は困惑していた。
目の前には俳優・女優として有名な双子といきなり出くわしたのだから。

プロフィール等は一切の非公開で詳細不明だが彼らは誰も知らない一つの事実を知っていた。
双子の片割れである羽島光理と自分達のメンバーの一人、トキヤが恋人同士で彼女の兄である羽島幽平はそれを認めていないという事を。


同じメンバーとしては祝福したいのだが如何せん同じ妹を持つ身である真斗を始めとしたその心境は推して知るべしだ。
下手な事を言って状況を悪化させたくない、という思いもあってどう声をかければ正解なのか困惑した。


「えーと・・・」
「・・・こんにちは」
「あ、はっ、こ、こんにちは!」

彼らは休憩中なのか二人とも座って優雅な動作で紅茶を飲んでいる。
兄の幽平が彼らに気付いた為、口元しか動いていない無表情を此方に向けて簡単に挨拶する姿を見てレンは一瞬眉を訝しげに顰めた。


(・・・あれ?)
「・・・トキヤ君はいないの?」

羽島光理がコテリ、と首を傾げる姿を見て更にレンは疑問が深まる。
何が、とは言えないが違和感が深まるばかり。

「俺は別に良いけどね」
「・・・幽平君」

サラリ、と敵意が僅かに篭もった言葉に咎めるように放つ言葉。
いつも通りの光景。その筈なのに―――。


「あっトキヤはちょっと仕事の打ち合わせで遅れてるんだ!
でももう少しで俺達と合流するから!ね、レン!」
「―――え、あ、うんそうだね・・・」
「?レン?」

『・・・・・・』

上の空の様に映ったレンを心配する音也の声にレンは意識を浮上させる。
それを静かに見る双子の心境はバラバラだった。


(もしかして神宮寺君気付いた?!気付いてくれた!?)
(流石フェミニストって所かな。
でも今回の作戦は彼じゃなくてあの馬なんだけどな)

内心で舞い上がりつつある栞と打って変わって幽の方は冷静に観察している。
因みに彼の台詞の『馬』は『何処ぞの馬の骨』の略したものだ。
いい加減言うのも思うのも面倒臭くなった結果なのだが、だったら認めてしまえば良いのにまだ彼の中では認めたくないらしい。


「音也、レン!」
「あっトキヤ!」
「・・・やぁイッチー」

一拍遅れて挨拶するレンに怪訝な顔をする者は居ない。
トキヤは視線をズラす事で双子の存在に気付き、紺碧色の双眸を瞬かせて一言。

「・・・その髪はウィッグですか?」
「え!?」
「流石だねイッチーは」
『・・・・・・・・・・・・』

一発で見抜いたトキヤを栞に扮した幽は隠しもせず睨みつける。
其れを間近で目撃したトキヤ達は一瞬、身体を凍りつかせたのだった。


+おまけ+

(ネタ晴らし後)
「そっくりだったから全然分からなかったよー!」
「君を騙せても、一ノ瀬トキヤを騙せなかったら意味が無かったんだけどね・・・はぁ」
「じゃ、気付かなかったのはイッキだけって事か」
「え!?レンも気付いてたの!?」
「・・・まぁレンは自称愛の伝道師らしいですから。・・・自称ですが」
(・・・二回言った)
「ま、今回は少し楽しかったかな。
光理とこんな事出来るのって俺位だし」

『・・・・・・・・・』

妙に誇らしげに呟く幽に沈黙を貫く主人公達。

  彼が彼女で、彼女が彼で

お待たせしました、50000hit企画第七弾です!
あっさりとバレた結果となりましたが出来るだけリク内容に沿える様、頑張ってみました!
東雲様、こんな感じで宜しかったでしょうか・・・?

リクエスト有難う御座いました!

20120726