過去企画 | ナノ

!トキヤ視点



これは一体どういう状況なのだろうか。

私の前には恋人である栞さんが真剣な表情(但し他人から見れば無表情)で私を見ている。
・・・状況が全く掴めません。

「・・・トキヤ、君」
「・・・・・・・・・・・・はい」


まるで世界が明日終わる、と宣告されたかのような彼女の雰囲気に私もつられて身構える。
しかし、栞さんから次に出た言葉はそんな私の構えなどまるで意味を成さない位の威力を持っていた。

「私、トキヤ君と別れる」
「・・・・・・・・・え、」
「幽君と結婚する事になったから、もうトキヤ君と付き合えない」

無表情で爆弾発言を放った栞さんは冷静だ。
対して私はというと、最初の発言に脳内拒否をしたのか、後の言葉が全く入らない。

けっこん?血痕では無いですよね。
他に『けっこん』という漢字変換は『結婚』しか無い訳で・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?


「は!?」
「だから、さよならをしようと思って今日会いに来たの」
「待って下さい。
貴女と幽さんは双子の兄妹でしょう!
遺伝子的にも法律的にも問題が有り過ぎます、それを」
「うん。
日本では無理だから外国で式を挙げるつもり」
「しっ・・・!」

通常では考えられない位、話の展開についていけない。
ちょっと待って下さい。
いえ、本当に。

「・・・ゴメンね。本当に。
私のことを酷い女とか、罵ってくれても構わない。
どんな言葉を交わした所で、私がトキヤ君を傷付ける事には変わりが無いのだから」


違う。そうじゃない。
そんな言葉を聞きたいんじゃない。

早く、早く声に出さなければ、きっと私は後悔する。


「・・・だから、――――だよ、トキヤ君」

否、一ノ瀬君。

そう言った栞さんの顔にはいつもの無表情に加え、何処か諦めたかのような、色が映っていて。



「栞さ―――!」


其処で、私の視界が揺れる。
彼女に伝えたいのに、平衡感覚が崩れる。



「・・・・・・え?」


そして世界が、視界がブラックアウトした。



  ♂♀



「・・・・・・くん。トキヤ君、」
「―――さ、ん、ッ栞さん!」
「ぇ、」



「・・・・・・・・・え?」

思わず腕を前に突き出し、掴んだ何か。

目を開け、掴んだモノを見ると白い、女性の腕。
・・・彼女の腕だった。



視線をずらすといつもと変わらない栞さんがいた。
・・・諦めたような色なんて何処にも無い、いつも通りの彼女が。

「・・・魘されていた様だけど、嫌な夢でも見ていたの?」

コテリ、と首を傾げる栞さんの姿に、アレは夢だという事を思い知った。

・・・なんて夢見の悪い・・・!


「・・・ええ、最悪な夢でした。
心臓と、精神的にも」
「?」


夢で良かった。
常日頃から幽さんに牽制されている私としては非常に現実味を帯びた夢でしたし。

・・・しかし、いつそれが現実になるか分からない。
此処は先手必勝と行くべきでしょうか。
あの夢はきっと、いつまでもぬるま湯に浸かる事など、許されないという警告のようなモノ。


「・・・・・・栞さん」
「はい」
「ずっと言わなかった事があります。聞いてくれますか?」
「・・・?」

今迄幽さんの事があったから先延ばしにしていた。
でも、それでは駄目なのだ。
ぐずぐずしていたら、きっと後悔する。


だから。

「幽さんを近い内に必ず説得しますので、どうか、一ノ瀬栞になって下さい」



勿論、答えは一つしか受け付けません。

だから、どうか。


こ の 手 を 離 さ な い で

  夢を夢で終わらせる為に、

20000hit企画第十弾は真白様に捧げます!
大変お待たせしました!
書いている内にトキヤが段々可哀想になってきたので夢オチに(汗
私の意気地無し!

リクエスト、有難う御座いました!
これからも『Elysion』を宜しくお願いします!

20120607