過去企画 | ナノ

昔々。
野山で竹を取り、様々な細工を作って暮らしていた竹取の翁とその妻の嫗がいました。

「あーもー!
本当に行きたくないんだけど!ねえセルティ、今日はもうオフでも良いよね!?」
『ダメに決まっているだろう』
「辛辣だねセルティ・・・。
えーでも本当に俺行きたくな、」
『行かなかったら別れ、』
「行ってくるね」

この二人の問答はいつもの事だしスルーするよ。
下手に突っ込んで惚気言われてもたまらないしね。
ある日、竹取の翁が竹林に出かけていくと根元が光り輝いている竹を見付けました。

「・・・親父が見たら解剖したがるかな。
や、でも人体じゃないから大丈夫?まあでも切ってみるか」

手馴れた手つきでいとも簡単に竹を切った翁。
翁が光っていた原因は何だろうと竹を覗き込むと其処には小さな女の子が。
・・・うわシズちゃんに何処となく似てるのがイラっとくるなあ。

「臨也自重しようか」

何言ってるの新羅、それが出来たら俺とシズちゃんの関係は此処まで最悪にはならなかったよ。
えーと、この小さな女の子を翁は自分達の子供として育てようと思い、家に持ち帰ったのでした。
・・・一歩間違えたらただの誘拐犯だよね。


『・・・どうしたんだ新羅、その赤ん坊は!』
「見てセルティ!
この娘を僕達の子供にしようと思うんだ!」
『返してこ、』
「静雄の妹の栞ちゃんなんだけど」
『・・・・・・』

翁の爆弾発言に暫く嫗は凍り付きましたが、きっかり十秒後に翁の家からぶわりと影が漂ったのは翁しか知らない。
運び屋は声が出ないし、当然といえば当然の反応かな。



  ♂♀



彼女は大切に育てられ、わずか三ヶ月程で輝くような美しい娘に成長し『なよ竹のかぐや姫』と名づけられた。
絶世の美女として噂されるも彼女にはある欠点があったんだ。
それは表情筋が動かない事。
嬉しいと思っていても悲しいと思っていても無表情。
なのでいくら美しくても無感情という時点で敬遠される事もあったんだけど、それを上回る数の求婚者がやってきたとか。
・・・あのシズちゃんの妹なのに?皆正気?

「お爺様、お婆様すみません。見世物みたいになってしまって」
『私達は大丈夫だが、栞ちゃ・・・かぐや姫の方こそ大丈夫か?』
「毎日こうも騒がれたら流石に疲れるでしょ?
・・・いっそ静雄を呼ぼうか?」
「私は大丈夫です。
・・・シズ兄さんがいたらきっと台風みたいになりそうだから呼ばない方が良いかと」
「やめよう栞ちゃんフラグ立てないで!」


世間の男達、それこそ身分が貴い者も卑しい者もどうにかしてこのかぐや姫を得たい、妻にしたいと、噂に聞いては恋い慕い、思い悩んだけど当の本人はそんな彼等を気にもかけなかった。
そうしている内にいつの間にか多くの男達がかぐや姫の家に通う事を止めていく中、五人の若者はしつこ・・・熱心に通いつめた。

「・・・言い寄るのか」
「おや頭の固い聖川には無理な役だったかな?」
「馬鹿にしているのか貴様」
「マサト、レン!喧嘩は良くないですよ!」
「真斗くん落ち着いて下さい!
僕の特製お菓子で良ければ、遠慮せずに」
「言わせねーよ!!つーかお前あれ程キッチンに立つなって言ったのに・・・!」

バラバラの個性を持つ五人の求婚者。
・・・俺ナレーターやめてちょっと人間観察してきても良いかな、どう思う新羅?

「爆発すれば良いと思うよ」

・・・・・・。


『かぐや姫、あの五人が求婚してきた者達だ。
この中で少しでも結婚したいと思う人がいたなら正直に言うと良い』
「初対面で流石にそう思う人はいないですね。
・・・此処は平等に皆様に一つのチャンスを与えたいと思います」
「チャンスだって?」
「はいお爺様。
簡単な事です、五人の中に私が見たいと思うものをお見せ下さったならば、私はその御方の妻としてお仕え致しましょう」

淡々と話すかぐや姫。
仮にも自分の将来がかかっている話だというのに彼女はまるで気にしていなさそうな口ぶりだ。

「聖川君には仏の御石の鉢を、神宮寺君は東の海に蓬莱という山があり、そこに銀を根とし金を茎とし真珠を実とする木が立っているといいます。それを一枝、折ってきて下さい。
四ノ宮君には唐にある火鼠の皮衣を、来栖君は龍の頸に五色に光る珠を、愛島君は燕の持っている子安貝を一つ取ってきて下さい」

知っている人が聞くとそれは鬼畜としか言い様がない。
どれもこの世には無いと言われる物ばかりだし、言外に「もう二度と近付かないでほしい」と言われたようなものだし。


暫くして五人の求婚者達は皆、それぞれの不幸が襲った。
流石の彼女もそれには堪えたみたいだけど・・・まあいつも通りの無表情だからねえ。
まあシズちゃんなら分かったかもね。

時は過ぎて、ある日の事。
巷で噂のかぐや姫について話題になっているのを他所に帝は屋敷を抜け出して、息抜きをしていました。


「ねートキヤ、此処まで来たらさ噂の姫に会ってこない?」
「五月蝿いですよ音也。・・・噂、ですか?」
「あれトキヤ知らない?
すっごい噂になってるのに。
ほら絶世の美女、なよ竹のかぐや姫の事だよ!」
「ああ、その人の事ですか。
聞いた事はありますが別に会いたいとは思いません」
「冷たい!トキヤー俺が言うのも何だけどさもう少し色んな事に興味を持った方が良いよ?」
「放っておいて下さい、というより貴方いつまで私の事を名前で呼ぶんです、帝と呼びなさい」
「え良いの?今呼んだらトキヤが帝ってバレちゃうよ?」
「・・・・・・」

相変わらず変なところで頭が回る・・・と一ノ瀬君は思っているんだろうね。
栞ちゃんの彼氏だって言うからどんな人間かと思っていたけど、うんある意味分かり易い。

「・・・勝手にしなさい。
あ、私は少し一人になりたいので貴方は何処かその辺で時間を潰してきて下さい」
「何か俺の扱い雑じゃない!?」
「気のせいですよ」

後ろで騒ぐ一十木君を他所にスタスタと山の方へと足を進める一ノ瀬君。
小鳥が鳴き、葉がさざめく中ようやく一ノ瀬君・・・帝は歩みを止めた。

「・・・今日は此処で本でも読むとしましょ、」

がさり、

「・・・」
「・・・・・・貴方は、誰?」

こてり、と小首を傾げながら問われた帝だったけど、その質問に答える事は出来なかった。
何故なら、山の中なのにも関わらず問うた彼女―――かぐや姫は姫姿だったのもあるし何よりその容姿に見とれていたからだ。

「っ折原さん!」

図星でしょ、一ノ瀬君。
俺の眼は誤魔化せないよ?

「・・・・・・」
「・・・トキヤ君?」
「っ大丈夫です、栞さん何もありません。
がしかし・・・その衣装、似合ってます」
「・・・・・・有難う。トキヤ君にそう言って貰えると嬉しい」
(本当にそう思っているのか分かりにくいんですけど・・・!)

・・・ねえ二人共、リア充の世界から帰ってきてくれる?

「・・・何ですか邪魔しないで下さい」

現実では恋人かもしれないけど今は違うでしょむしろ初対面なのは分かってる?
ねえホント黄瀬君みたいな事やめてくれないかな・・・(遠い目

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更に続きます!
ラストでトキヤ君が黄瀬君化してきたのは予想外だった。

20131230