過去企画 | ナノ

昔々ある所に、赤ずきんという女の子がお母さんと森の中でひっそりと暮らしていました。

「・・・待って待って本当に待って。
理解が全く出来ないんだけど」
「・・・臨也さん、どうでも良いけどこれを被って今すぐお婆さんの所に行ってきて下さい」
「うん幽君、俺に状況把握させてくれるかな」
「・・・俺がお母さん役で、臨也さんが娘役。
そして今からワイン・・・は駄目だから紅茶と、パンが入ったバスケットを持ってお婆さんの元に行ってきて下さい」
「清々しい程さっきの台詞と変わらないね。
ていうかこれって何?何処からどう見ても防空頭巾だよね?何で赤色?そして何でこんな森の中に住んでいる設定なの?」
「(無視)言い忘れていたけど森の中には狼がいるから気を付けてね」
「それ一番重要な事じゃないの?そしてその森の中に一人で住むお婆さんってどれだけ強いわけ、シズちゃんじゃないんだよ俺は」
「それを言ったら物語が崩壊するから」
「なら君が行った方が早、」
「それを言ったら物語が崩壊するから」
(同じ言葉を二回言った)
「大事な事だからね」
「・・・俺今口に出してないよね?
何幽君って運び屋と同じ人外なの?」
「俺は兄貴と同じ人間ですが」
「・・・・・・」

・・・微妙に不仲かと思われる会話をする赤ずきんとお母さん。
赤ずきんがおばあさんの所へ一人で行くのは初めてだった事もあり、とてもそうとは思えないですがお母さんは心配でたまりません。
ですがお母さんには用事があって一緒に行けないのです。

「別に今日じゃなくても良くない?ていうか一緒に行くなんて嫌だよ幾つだと思ってるわけ?」
「(無視)臨也さん、いいですか。
途中で道草をしてはいけません。それから狼に用心を。狼はどんな悪い事をするかわからないから話しかけられても知らん顔し、」
「狼が話しかけるって何?人語を解するならマスコミにでも売り飛ばされるだろうによく野生として今まで過ごしてこられたよね俺感心するよ」
「・・・最初から今までずっと突っ込んでますけど、そろそろ諦めませんか」
「諦めたら俺の中の何かが崩壊しそうなんだけど」
「・・・とにかく行ってきて下さい」
「嫌だよ」

淡々とした表情でお母さんは問答無用と言わんばかりにバスケットと赤いずきんを持たせてお婆さんの元に送り出しました。
ていうかこの組み合わせもなかなかにカオスですね精神的ダメージが半端ないんですが・・・嫌がらせですかね分かります←



  ♂♀



おばあさんの家は、ここから歩いて三十分程かかる森の中にありました。
その日はとても天気の良い日で赤ずきんが不本意ながらに歩いていると、突然狼が現れたのです。

「こんにちはっス!
赤いずきんが可愛い、散葉―――ってまさかのお兄さんっスか!?」
「・・・・・・君にお義兄さんって言われたくないんだけど。
ていうか君の目は節穴かい?
俺は赤いずきんなんて被ってないし、どうしたら散葉と間違えられるわけ?」
「・・・なんか怒ってないっスかお兄・・・臨也さん・・・?」

赤ずきんから微弱に漂わしている殺気を敏感に感じ取った狼はびくびくと身を震わせました。
そんな狼を見る赤ずきんには何かの特殊効果が加わったのか、狼ではなくただの大型犬にしか見えなくなりました。
今回だけでなく僕の場合は最初からそう見えてましたけどね。

「君には関係無いよ」
「?・・・あれ赤ずきん役が散葉じゃないって事は・・・じゃあ散葉って何の役なんスか!?」
「さあ?」
「さあ!?情報屋が聞いて呆れるっスよ!ちょ、シンデレラや人魚姫ではオレの相手役は散葉だったのに今回は散葉は何の役なんスか!?」
「(面倒臭い・・・)情報屋だからこそ情報を売る相手を選ぶんだって」
「こうしちゃいられないっス!こうなったら手当たり次第聞くしかないっスね!」
「え?」

ダッ!


・・・凄いですね黄瀬君。
帝光中時代、散々赤司君から言われていたのにも関わらず戦争コンビと渾名されている二人の内の一人にあんな会話(?)が出来るとは。
元教育係として誇りに思います。

・・・さて本来なら狼が赤ずきんを花畑まで誘導して時間稼ぎをする予定だったのですが狼は暴走し、この先にあるお婆さんの元へと走っていきました。
流石海常のエースですね、もう後姿が見えませんよ。


「・・・そういう問題?
ていうか妹の男の趣味を疑うよ。
や、あの様子だと単純に彼に捕まったようなものかな?どっちにしろ散葉って男運が壊滅的に無いのかもね?」


・・・そうですね。
身近な男性が貴方という時点で歯車が狂っても可笑しくないでしょう。


(・・・これが世間で言う"真っ黒子様"発言か・・・)



  ♂♀



赤ずきんと別れた狼は闇雲に走って十五分程経過した頃。
視界の隅に小さな家が見えたのでとりあえずコンコンと戸を叩きました。

もしかしたら自分が捜し求めている彼女を知っているかもしれないという淡い希望を抱きながら。


「はいはーい、どなたですか?・・・ってあれ、」
「っ散葉!」
「え、え?ちょっと早くない?もうイザ兄を足止めしたの?」
「(足止め?・・・あ、そういや)そ、そうなんスよ!
だからこうして来たんスけど・・・お婆さん役って散葉だったんスね!」
「・・・涼太君、何隠してない?」
「な、何の事っスか?」
「・・・・・・」

呆れを含めたお婆さんの視線から顔を逸らしつつ、狼はようやく台本に戻ってその口を開きました。
それより黄瀬君、折原さん。
本名で呼び合わないで下さい、特に黄瀬君。何回目の台詞ですか。


「う!黒子っちが怒ってる・・・!
と、とにかく!散葉がお婆さんだったなら話は早いっス!」
「?」
「散葉!」
「は、はい?」

ビクリと身を震わせるお婆さん。
そりゃ160cmと189cmという身長差があったらそういう反応も取りますよね。
・・・巨神兵滅べ。


「美味しく頂きます!」
「っ!?」

狼はすっかり油断していたお婆さんに飛びかかりました。
そんな狼の行動に恐怖のあまり気絶してしまったお婆さんの着物とずきんを取り、後はパクリと、お婆さんを丸飲みにしてしまいました。
それから狼はお婆さんの着物を着てお婆さんのずきんをかぶり、ベッドの中へ潜り込みま―――ちょっと黄瀬君。

本 当 に い い 加 減 に し て 下 さ い 。


「りょ、うたくん・・・?」
「嫌っス散葉不足なんスよ此処等辺で溜めておかないとオレしんどい」
「え?え?」

だからって折原さんに抱きつく馬鹿がいますか何処まで駄犬なんですか早く離れて劇を再開して下さいさもないと僕の右手が唸りますよ(イグナイト的な意味で)


「ヒッ」(ぎゅうう)
「きゅっ」(みしみし)

狼に締め付けられるように拘束されている所為でお婆さんの背骨が悲鳴をあげていますが狼はそれに気付きません。
・・・ナレーターに脅されているので無理もありませんが。


「りょ、た・・・く、くるし、」

お婆さんの意識が真っ暗になる寸前。
二つの声によって肺を圧迫するような苦しさから解放されました。

「・・・?」


「てめえが何で赤ずきんの役なんだよ臨也あああ!!」
「そういうシズちゃんは猟師?似合わないねえ」
「そういうテメエはどうなんだああああああ!!」



ガッシャアアアンッ



「・・・・・・」
「・・・・・・」


大暴走する戦争コンビによってある意味で狼に食べられそうになっていたお婆さんは無事助けられたのでした。

おまけ≫

  赤ずきん劇場

お待たせしました500,000hit企画第四弾はんん様に捧げます!

狩人役があまり出せなかった・・・。
黄瀬が安定の扱いとなりましたがこれで良かったのだろうか。
黒子と黄瀬の絡みは楽しんで書く事が出来ました!
そして当サイトの黒子っちは真っ黒子様の傾向があると気付けた作品でもあります。
リクエスト有難う御座いました!

キャスト
赤ずきん:臨也 お婆さん:主人公 お母さん:幽 狼:黄瀬 狩人:静雄 ナレーター:黒子

20131208