過去企画 | ナノ

こうして王妃によりこの国から紡ぎ車は無くなったのです。
あれこれって本来王様の仕事じゃなかったっけ・・・?まあ良いか。

王国から紡ぎ車は消え、そして十五年がたちました。
王女は魔法使い達の祝福どおりに世界中で一番美しい、天使の心を持つ少女に成長しました。

立ち居振る舞いは例えようも無く優雅で美しい声で、誰の心にも響くように話しましたがただ一つ、彼女は表情と台詞が一致しないという欠点がありました。
嬉しいと言っていても表情がそれに伴っていないのです。
呪いの事を知っている側としては呪いの余波を受けているのでは、と危惧していましたが彼女は年老いた魔法使いの呪いの事も、紡ぎ車の事も何も知りませんでした。

「・・・今日はシズ兄さん・・・お母様もお父様も男同士の話があるとかで城にいないし、城の中を探索でもしようかな」

・・・王女の台詞の一部、凄い突っ込みたい所があったんだけど。
男同士じゃないよ!?ちょ羽島さん!此処では夫婦だからね!?
見えないけど!戦争コンビだけど!

「・・・そういえば独尊丸は何処に行ったんだろ?」

コテリと首を傾げながら、仔猫を探す王女。
表情筋を全く動かさずに庭を歩き続けると、何処からかカタコトと音が聞こえてきました。

「・・・聞いた事の無い音・・・もしかしてこっちに独尊丸がいるのかな」

王女はその音を探して、お城の中を探しました。
納屋の中からでも、王妃の部屋からでも、厨房の中からでもありませんでした。

その音はお城の上の高い塔の上から聞こえていたのです。

「・・・此処?」

王女は長い長い階段を登って行き、屋根裏部屋の戸を開けました。
其処には老婆がカタコトと紡ぎ車で糸をつむいでいました。

「・・・貴方は」

くるくる回すだけで糸が次々に繰り出すさまは王女の好奇心を十分刺激しました。

「む、見付かったか・・・」
「聖川く・・・じゃない貴方はこんな所で何をしているの?」
「この通り、糸を紡いでいます」
「私にも出来るかな」
「はい、俺より上手く出来るかと・・・。
では此方に座って下さい」
「・・・有難う」

王女は老婆に扮した魔法使いの手下が差し出した紡ぎ車に手を出し、そして指に針を刺してしまったのです。
それと同時に王女にかけられた呪いが発動し、深い眠りについてしまいました。
当然彼女の体に力無く倒れました。

「っ!」
「っ羽島さん!」

ぼすん、と抱きとめた手下は非常に悪役らしくない手つきでゆっくりと王女を床に寝かせ・・・あれ?


「このままだと風邪をひいてしまうからな・・・まず布団を、」
「・・・聖川、本来の目的を果たしたんだから、早く逃げないと・・・」
「婦女子をこのままにしておけるか!!」
「其処は同感だけども!!」

くわっと目を見開いて怒るマサとその剣幕にたじたじになっているレン。
二人共、素を出し過ぎ・・・。
ていうかトキヤの目が怖いんだけど深く考えないようにしておこう。

こうして舌戦をしばらく繰り広げていた二人も王女を置いていつの間にか飛び去って行きました。



  ♂♀



「おかしいですねー王女様が見当たりません」
「ナツキ、そっちはどう?」
「あっ藍ちゃん!いえこっちには来ていないようです」
「そう・・・独尊丸が見付かったと思ったら今度は王女か。
全く世話が焼けるよ」

王女がいなくなった事に胸騒ぎを覚えたお城の者達はあちこちを探しました。
この事はすぐに王と王妃に知らされ、二人・・・特に王妃は急いでお城へ帰りました。

結局その夜遅くに塔の屋根裏部屋で倒れた王女を発見したのです。

「栞!目を覚ませ!」
「静雄、臨也!栞ちゃんが眠ったって聞い、」
「新羅!治せ!!今すぐ栞を治せえええ」(ぶんぶん)
「ちょ、中身が出る!」
『落ち着け静雄!』
「あはは、シズちゃんてば情けないねー」
「うるせえノミ蟲ぃぃいいい」

王女が眠りについた事を知ったのか、魔法使い達が集まってきました。
王妃は娘を用意してあった眠りの部屋に運び、金の刺繍の入ったベッドに寝かせました。

「とにかく!こうなった以上何とかしないとね!」
「おい其処の茶髪、・・・俺の妹がこんな目にあったっていうのに何だその態度は」
「え?ちょ、うわあああ」
「(無視)嶺二のヤツは置いといて・・・とりあえず翔の贈り物は百年の眠りだったか?」
「ならばこの城も眠らせてしまえば良かろう」
「カミュにワタシも賛成です!
目を覚ました時、知っている人が誰もいなかったら王女様が悲しみます!」
『よし。そうと決まったら早く始めよう』
「さっさとすませようか・・・ほら静雄。その辺にしておいてあげて」

・・・ギリギリと首を締められてたけど、れいちゃん大丈夫?

「おとやん・・・ぼくちんもう駄目っぽい・・・」

ええええええ。



  ♂♀



そんなこんなで魔法使い達は手分けをして王女の侍女、近衛兵、役人、料理長、給仕人、御者、馬番、馬から鶏まで、ありとあらゆるものを王女と同じように眠らせました。

最後に王と王妃を半ば無理矢理寝かせると王が隙を見て逃亡しようとしていたのもあったけど若い魔法使いは茨を門の前に植えました。

「よしこれで終わりだ・・・!
茨よ、王女達を守ってくれよな」


若い魔法使いがそう言うと茨は瞬く間にお城を覆い尽くし、永い眠りの間誰にも邪魔されず誰の目にも触れられ無くしてしまいました。

魔法使いが茨に覆われたお城を後にするとお城の周りは深い森となり、もう誰にもお城に近付く事さえ出来なくなりました。

「・・・皆さん、百年後を待ちましょう」
「ふん、百年などあっという間だ」
「そうか?結構なげーと思うけどな」
『・・・大丈夫だろうが心配だな』
「僕としては臨也と静雄に巻き込まれなくてせいせいするけぐはぁっ」
「・・・新羅さん、大丈夫ですか?」
「結構イイ音がしたよね翔たん・・・」



  ♂♀



百年の時が経ちました。
茨の中にある城の事はまことしやかに民の間で噂として流れていました。
そんな中、隣国の王子がふらりと茨の城の近くまで来ていた時の事。

「・・・おや、あれは・・・?」

王子がふと空を見上げると其処には深い森とその中にそびえ立つ塔。
王子は気になる事があるととことん調べるという性格でした。
なので今回もすぐ傍を通った民らしき人に尋ねました。

「すみません、あの塔についてお聞きしたいのですが、」
「塔、ですか?えと・・・あの塔というかあの城には、世界で一番美しい王女様が眠っておられるのです。
ある魔女に死の呪いをかけられた為に、他の魔法使いが死のかわりに百年の眠りにしたのです。
その魔法使い達が決めた王子様なら、あの深い森の中で眠っている王女様や更には他のお城にいる人達も目覚めさせる事が出来ると言われているのです。」

浮世離れした美女が王子の質問に答えると、また新たな疑問が湧いてきました。

王子とは誰なのか。
そもそも王女は一体いつから眠り続けているのか。

「・・・そもそもどうやって目覚めさせるのです?」
「言い伝えでは王子様からの口付けだと・・・」
「・・・・・・そ、うですか」

彼はあまり自分の身分を言いふらす性格ではありませんが、彼もまた王子と呼ばれる身分です。
まさか自分が相手だとか、そんな上手い話があるわけが無いと思いつつ、王子は半信半疑でその茨の城へと向かうことにしました。



  ♂♀



王子が森に分け入ると不思議な事に森の木々がす、と道を開けました。
一歩進むと絡んだ木々がほどけ、一歩進むと荊や生い茂った草が脇によけました。
王子はそんな不思議な光景にも構わず前へと進みました。

「・・・奇妙な森ですね・・・ですが確かに動物の鳴き声さえもしないという事は先程の彼女の言葉は本当という事でしょうか」

どんどんと森を突き進むとやがて庭へと出ました。

「此処は、庭でしょうか・・・?
って四ノ宮さん!?」

トキヤ!トキヤ名前言っちゃダメ!

「はっ」

えと、・・・王子が倒れている人達の呼吸を調べると皆眠っているだけ。
ですが決して目を開く事はありません。

「恐らく此処が茨の、・・・眠りの城で間違いはないでしょう。
という事は王女を探さなければ彼等は決して目を覚まさないという事に・・・」

彼はそう推測すると、周囲に気を配りながらお城の中へと入って行ったのです。
近いところから一つ残らずドアを開けていくと、衛兵が大勢眠り、また料理長や給仕も眠っていました。


更に王子は城の中を進み、いくつもの部屋のドアを開け、上へ上へと登りました。
・・・途中いくつか壁やら色んな物が破損していましたが王子は黙殺します。

それに触れてはいけないと王子の本能が告げていたので忠実に守りました。

そして一際大きな部屋に入ると其処には天蓋のついた大きなベッドがありました。
幕の向こうのベッドの上に十五歳位の輝くように美しい王女が静かに眠っていました。

「・・・!」

言葉も出ないとはまさにこの事。
王子は半ば茫然と彼女を見つめていました。

「(っ栞、さん・・・)
・・・何という美しい姫なのでしょう・・・こんなに美しい女性を見たのは初めてです。
どうか王子の口付けで目覚めるというのなら・・・」

ちゅ、

「・・・・・・ん、・・・・・・」
「・・・・・・王女様・・・・・・?」
「・・・ぁ、れ・・・?」
「っ王女様、いえ栞さん、私は貴女に一目惚れをしました。
戸惑われると思いますが、結婚を前提に付き合って頂けませんか?」
「え、」
「後悔はさせません、だから、」
「・・・・・・私は、貴方の事を何も知らない。
逆に貴方も私の事を知らないのに?」
「それでも、です」
「・・・そう。じゃあ宜しくお願いします」
「・・・私が言うのもなんですがそんな簡単に頷いても良いのですか?」
「うん。貴方のその瞳を見たら分かるからね」
「?」
「貴方はとても誠実だって。
・・・後悔させないんでしょう?」
「っ・・・勿論です」

ふわり、と笑う王女に釣られたのか王子も彼女に笑い返しました。
彼等の部屋に我先にと王妃達を筆頭に駆け込んでくるまで後―――。

おまけ≫

  眠り姫劇場

お待たせしました500,000hit企画第三弾は七虹架様に捧げます!
主人公があまり出番がなかった・・・。
それだけが悔やまれる。

キャスト
王女(眠り姫):主人公 王子:トキヤ 王:臨也 王妃:静雄 
魔法使い:翔、セシル、嶺二、蘭丸、カミュ、新羅、セルティ 
悪の魔法使い:早乙女 悪の魔法使いの手下:真斗、レン 民:ルリ ナレーター:音也

20131128