過去企画 | ナノ

!黄瀬と従姉弟設定



「栞っち!
其処に段差があるから気を付けて歩いて!」
「・・・うん、有難う涼太君」
「どういたしまして!」

とん、と段差に気を付けながら歩く黒髪の女性は無表情。
一方の金髪の少年は満面の笑顔。

彼らの関係は従姉弟だが、もし本当の姉弟ならまるで母親の腹の中に黒髪の女性の持つ感情を全て置いてきて、金髪の少年が彼女の分まで感情を吸い取って生まれてきたと言われても納得してしまう位、二人の纏う空気に温度差があった。


「それにしても久しぶりっスねー!
栞っちがこっちに来るの!静雄サンは元気っスか?」
「元気すぎるかな」
「あはは・・・まああの人が風邪とかウイルスにやられるなんて想像も出来ない、っスけど、ね!」
「・・・涼太君は中学校生活、どう?楽しい?」
「オレっスか?
そっスねー・・・バスケは勿論楽しいっスよ!
後黒子っちとか青峰っちはマジで尊敬するっス!
あ!栞っちは、スキルって知ってる!?」
「・・・スキル?」
「『異常アブノーマル』とか言って、瞬間移動とか簡単に出来る人の事っス!!」
「・・・涼太君、熱」
「無いっスよ!!マジで言ってんスから!
オレの周りにすっごい人がいるんス!
安心院っちって言って、あの赤司っちや他のキセキを簡単にあしらえる位凄いんスよ!!」
「・・・そうなんだ」


ごめん涼太君、赤司君とやらを知らないからあまりピンとこない。


栞の心からのツッコミに黄瀬はやはり気付かない。
此処はやはり彼女のポーカーフェイスが成せる業である。


モデル業をこなす二人は現在、人気の少ない所を選んで歩いているがそれでも黄瀬の金髪は目立つ。
しかも高身長。天は二物を与えないというがそれは嘘らしい。
栞は淡々とそんな事を思いつつ歩いていると、ふと影が落ちたような気がしたので徐に視線を上げた。


―――其処に居たのは、明らかに一般人とは言えない"何か"を抱えたような、黒髪の少女だった。


「あれっ安心院っち!?」
「やあ黄瀬君、こんな所で会うとは奇遇だね。
ある小説風に言うと"縁が合ったから"、かな」
「?」
「ああ、気にしないでくれ。
・・・隣りにいるのは君の彼女かい?」
「ち、違うっスよ!
栞っちは従姉弟っス!!」
「わっはっはっはっは、そんなにムキになって否定しなくても良いじゃないか」
「・・・安心院っち楽しんでるっスよね?」
「まあね。
君みたいな人は特に弄りがいがあるから」
「流石赤司っちの幼馴染!歪み無い!」
「おいおい、僕が征十郎君に似たんじゃない、征十郎君が僕の影響を受けたんだぜ」


「・・・・・・」


一人会話についていけなくなった栞。
そんな彼女に気付いたのか、安心院つゆりは適当に黄瀬を声をかけた。

「よし、黄瀬君僕の分を含めて是非とも飲み物を買ってきてくれないかい?
お金は勿論僕が払うからさ」
「えいきなり何スか」
「ちょっと彼女とお話したくなってね。
だからお使いがてら行ってきてくれよ」
「・・・はあ」


黄瀬は栞に一言二言声をかけてから足を自販機に向ける。
とにもかくも、つゆりは見事、二人きりの状況を作り出す事に成功した。


黄瀬の姿が遠く離れたことを確認するとつゆりはにこりと、毒気の無い笑顔を栞に向けたが栞は表情筋を微動だにしなかった。


「やあ初めまして。
僕の名前は安心院つゆり、是非とも親しみを込めて安心院さんと呼んで欲しいな」
「・・・平和島栞です」

軽く会釈をする栞につゆりは笑を僅かに深める。


「わっはっはっはっは、長く生きてみるもんだね。
まさか君みたいな人間に会うとは思わなかったよ」
「・・・・・・」
「君は明らかに『普通ノーマル』じゃない。かと言って黄瀬君みたいに、『特別スペシャル』でも、ましてや『異常アブノーマル』、『過負荷マイナス』でもない」
「何の話ですか?」
「こちらの話、と言いたいが・・・残念ながら僕は君に興味がわいたよ。
ねえ一つ尋ねるけど、」
「・・・・・・」

栞は内心驚いていた。
だって初対面で自分の核心とも言えるモノに気付いた人間はいなかったからだ。

自分の記憶の引き出しを開けてみても『彼女』は存在していなかった筈だ。
まさか彼女は、自分と同じ、この世界ではない何かなのだろうか―――。

栞が咄嗟に弾き出した思考を知る由も無いつゆりの口から出た言葉は、彼女のド肝を抜かせるには充分過ぎる程の威力を持っていた。


「"君"は、一体何者なんだい?」


それは確信を持った一言。
明らかに何かを確信しているその姿に栞は一瞬息を飲んだのだった。

  無色と特別と悪平等

一周年企画第十三弾は柚月様に捧げます!
何処か不穏な気配が混じった小説になりましたがこれでよろしかったでしょうか・・・。
お待たせしてすみませんでした!(汗

20131110