過去拍手 | ナノ

!時間軸:帝光中
!バレンタインネタ



バタバタ、と慌ただしく廊下を走る音につゆりは一瞬柳眉が逆立つ。


・・・全くいつになったら分かってくれるんだろうね。
廊下は走っちゃいけないって言われているだろうに。
まー僕に迷惑被害が被らなきゃどうだって良いんだけど・・・。


つゆりがそうぼんやりと考えながら次の案件が書かれた書類に目を通そうとしたその刹那。



バタバタバタバタ・・・ばぁんっ!



「安心院っちぃぃぃぃ!!」
「安心院テメェ顔を貸しやがれッッ!!」
「・・・・・・」


生徒会室に遠慮無く飛び込んできた黄色と青色につゆりは飄々とした笑顔を浮かべたまま無言で出迎える。
そして―――。





「・・・で、僕専用部屋VIPルームまで押しかけてきて一体何の用なんだい?
ていうか何度言ったら分かるのかな、僕のことは親しみを込めて安心院さんと呼びなさい」


つゆりの輝かしい笑顔を向ける先には先程まで勇んでいた筈の黄色と青色、もとい黄瀬と青峰は現在、力無く倒れ伏していた。


「あ、安心院っち、僕専用部屋VIPルームって此処生徒会室っスよね・・・?」
「てめ・・・、スキルを使うなんてひきょ、」
「わっはっは、まぁ細かい事なんて拘るなよ二人共。
まず黄瀬君。
生徒会長のくせに征十郎君はご存知の通りそんなに此処に来ないし、どう呼んでも問題無いとは思わないかい?
そして青峰君、僕がその気になれば一京分の一のスキルなんて言わずに一京全てをぶち込む事だってあるんだぜ?
それに比べれば君が食らった一つのスキルなんて可愛いものじゃないか。
―――さて、二人共もう一度聞くけど一体何の用かな?」


主将である赤司に勝てない彼等が更に上手のつゆりに勝てる筈が無い。
二人はつゆりのスキルによってボロボロにされた身体を引き摺りながら座り込む。

そうだ、本来の目的を忘れてしまうところだった。


「・・・安心院、テメエ今日が何の日か知ってるよな?」
「うん?何か特別な行事でもあったかな?」
「やっぱり忘れてるんスね!?」

そう絶叫する黄瀬を背景に又もやガラリ、と音を立て扉を開いたのは水色。
その後ろには緑色と紫色もいる。


「それは本当ですか安心院さん・・・!」
「安心院ちん、それ女の子としてどうかと思うよー」
「・・・おや黒子君に紫原君・・・緑間君も一緒とは。
どういう風の吹き回し?」
「どういうも何もオレ達の命に関わる事なのだよ!」


くわっと怒りを露にする緑間につゆりは首を傾げつつカレンダーを見る。
記された日付は2月14日。


「・・・ああ、何かと思えばバレンタインか」
「その通りです、安心院さん。
今からでも遅くはありません、赤司君にチョコレートを渡して来て下さい」
「お願い安心院ちんー」
「一生のお願いっス!」


黒子、紫原、黄瀬と順に責め立てられるつゆり。
自分よりも背が高い男に詰め寄られても尚動じない素振りは流石と言ったところか。


「僕はそういう行事に参加しない方だ。
征十郎君もそれを分かっている筈だと思うんだけど?」
「そんな事オレ達も知ってらぁ!
だけどそれを知らねー女子が赤司に直接神経逆撫でるような事言ったらしくて今物凄い不機嫌なんだよ!!」
「あの状態で放課後まで放っておくと確実に部活の練習に支障を来たす。
その前に何としてでも機嫌を直してもらう必要があるのだよ!」
「・・・で僕がチョコを渡したら万事解決、と?」
「その通りー」

そうは言われてもつゆりの手持ちにチョコレート等のお菓子類は存在しない。
故に彼等の期待には応えられない事を淡々と言うと彼等の表情はより一層絶望の色に染め上がった。

そんな彼等を余所につゆりはふと、一人の存在を脳裏に浮かべながら窓の外を見る。

(バレンタインか・・・そうだ、今度気紛れに渡してやろうかな。
はっはっはっ、チョコレートをあげるなんてした事無いからどんな反応が返って来るか楽しみだ。
―――ねえ半纏、この僕があげるんだから良い反応を返しておくれよ?)

この世でたった二人の、悪平等ノットイコール
ただ其処に居るだけの人外。

"彼"の事を思い描きながらつゆりは誰にも気付かれない位小さく微笑を浮かべたのだった。

201302XX