過去拍手 | ナノ

!ホワイトデーネタ(?)



それはとあるコンビニだったと思う。

「あー!ねぇ見て見て!」
「どうしたのー?」
「トキヤがいるの!格好良いよねー!!」
「アンタってホントトキヤが好きだよね・・・」
「嫌いな人なんていないでしょ!」

「・・・!」


ビクリ、と自分の肩が震えたのが分かった。
雑誌を持つ手もそれに釣られて揺れ、栞は静かに呼吸を整える。


―――落ち着け。落ち着け自分!


「トキヤの彼女になりたーい」
「えーそりゃ無理でしょ、会えないんだしー」
「それでもだよ!」

「・・・」


会話をしっかり聞きながら、だけど視線は手元の雑誌に。
その後も誰か分からない女性達の会話が続いたが、栞は全て聞く事無くそのコンビニを後にする。


・・・本来なら喜ぶべきなのかもしれない。
自分の恋人が人気で、且つ恋人にしたいと言われたら彼女としては「凄いね」と言うのは。

なのに。


「・・・トキヤ、君」


どうしてだろう。
あの会話を聞いてたら無性に言いたくなった。
彼は、一ノ瀬トキヤは私の恋人なのだからそんな事言わないで、と。



  ♂♀



「・・・」
「・・・」
「・・・・・・」

トキヤは久々に会った恋人に内心では考えあぐねていた。

無表情なのはいつもの事だが、今回はどうも様子が可笑しい。
何が、と問われれば何とも言えないが兎に角いつもと違う。
それ位は分かる。
では何が原因なのか。


「・・・栞さん?」
「何?」

無表情。
だけど、この表情に惑われてはいけない。
その背後にあるモノを見付けないと。

「・・・」


一方、先日の出来事が原因でトキヤに対し平静を装っている振りをしていながらも挙動不審な態度をとっている栞はどうすれば良いのか分からなくなっていた。
無論、トキヤもいつもと違う自分の様子に気付いてる。

いつも見抜かれる事の無いその事実は素直に嬉しいが、今回はあまり嬉しくない。
気付かないでほしかった。


「トキヤの彼女になりたーい」
「えーそりゃ無理でしょ、会えないんだしー」
「それでもだよ!」


そんな風に言われる彼はとても多忙だ。
あまり会えない事が多い。
事務所も違うし、自分も仕事で色々な所に行くから余計に会えない。
今日はお互いのオフが重なったので久々に会えたというのにこの態度はないだろうと思う。

だけど。
寂しい。切ない。
だから―――不安だ。

「・・・ごめんね」

ぽすん、


「?」
「・・・」

トキヤにもたれ掛かるような形で栞は背をトキヤに預けた。
その行動にトキヤは狼狽するが栞は一切気にしていないようだった。
自由すぎる。


「あの、栞さ、」
「・・・充電中」
「・・・栞さん本当に何があったんですか」

トキヤが心配そうに此方を見ているをの見て何とも居た堪れない気持ちになる。

「トキヤ君は、私の恋人だよね」
「?そうですよ」
「・・・なら、良いや」
「は?」

「トキヤ君がそう言ってくるだけで私は頑張れるから」
「・・・もっと欲張って下さい。
今日はホワイトデーですし貴女のお願いなら余程無理難題でない限り、聞きますから」
「うん・・・」

トキヤの声に瞼を閉じかける数秒前。
栞は小さな微笑を浮かべて擦り寄いながら返事をする。

本当に起きているのかと疑いたくなるような感じだったが敢えて其処は流しておく。

「ほら、何かないのですか?」
「ん・・・特に」
「・・・どれだけ欲が無いんですか・・・」
「私は恵まれているから。
これ以上何かねだったら怒られそう」
「誰に怒られるんです・・・」


世の若者ならしからぬ発言にトキヤは苦笑する。

・・・全く。


「まぁ、でもこれだけは言っておきますよ。
バレンタインデー、有難う御座いました。
今日は今まで会えなかった分甘えて下さい」
「・・・ホワイトデーってそういう日だったっけ?」
「いつも貴女が甘えないのですから、たまには良いでしょう」
「・・・そうかな」
「そうですよ」
「・・・・・・じゃあ、」

栞のあまり無い甘えに、彼は微笑したのだった。

今回はホワイトデーネタ第二弾『花雪』編。
加筆修正済です。
今回は主人公がブルーになって貰いました。
ホワイトデーなのにブルーって・・・。


201303XX