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!両想い



「羽島さんってスキャンダルとか一切無いですけど、好きな人とか居ないんですか?」
「・・・・・・」

いきなり話題を振られた栞は一瞬沈黙した。



・・・・・・・・・どう返そう。


栞は何を期待しているのか分かりたくなかったが、明らかに何かを期待している春歌の黄金の双眸を見つめる。


「・・・・・・」


そんな目で見ないで!


・・・えーと何だっけ?好きな人?
否、その前に私みたいな無表情ばかりで全然笑わなくて、気の利かない女を相手にしてくれる人なんてトキヤ君位だと思うんだけど。

・・・他にそんな物好きな人が居るなら是非見てみたい。


「で、では羽島さんの好みのタイプはどんな方なんですか!?」
「・・・七海さん、何故そんな事を聞くのですか?」
「え!?そ、それは・・・!」
「・・・?」
(羽島さんに片想いをしている一ノ瀬さんの為です、なんて言えない・・・!)


内心で卑屈になっている栞に気付かない春歌は先日、ひょんな事から音也にトキヤは羽島幽に片想いしていると聞いたのだ。
その為、春歌は微力ながらと直接栞に聞くことにした。



しかしそれは音也の勘違いであり、春歌の奮闘ぶりは献身的であるものの、現実では二人は両想いで恋人同士である。
栞とトキヤはそれを秘密にしているのだが悲しいかな、それを訂正出来る者は此処に居ない。


勿論そんな擦れ違いがある事なんて知らない栞は傍から見ると淡々としたように言葉を紡いだ。


「言えないのなら別に構いません」
「・・・・・・え?」
「いきなり聞かれたので驚いただけですし。
・・・恋愛の話でしたよね。
答えられる範囲で良ければお答えします」
「あ、有難う御座います!」


思ってもみない言葉に春歌は喜色満面の表情を浮かべたのだった。



  ♂♀



えーと好きな人、というか付き合っている人はトキヤ君だけどそれを言う訳にもいかないから・・・誤魔化すしかないか。
ゴメン七海さん!


「好きな人、はいないかな」
「いないんですか!?」
「・・・そんなに驚く事ですか?」
「え、いえ・・・すみません。吃驚してしまって・・・」


常に無表情の彼女を見ていたら本当にいないのか、と疑問に思ってしまうのと同時に納得してしまうのも確かで。

もしかしたらポーカーフェイスで隠しているんじゃないか。
もしかしたら恋愛対象として男性を見た事が無くて、だからいないのか。

そんな思考を抱きながらも春歌は二択の質問で好みのタイプを絞り込む事にした。



「あの、これから質問するので答えて頂けますか?」
「・・・どうぞ」
「まず・・・明るい人と静かな人、どちらが良いですか?」
「・・・そうですね、僕は・・・」


・・・あ、トキヤ君を連想しながら答えたら良いのか。
えーとトキヤ君は・・・。


「・・・あまり明る過ぎても反応に困りますし、静かな方が良いかと」
「!本当ですか!?」
「(ビクリ)・・・はい」
「(ハッ)す、すみません。
えっと・・・身長は高い方が良いですか?」
「・・・」

トキヤ君の身長は確か170後半で・・・180はなかった筈。
男性の平均身長は170cm位だったから・・・。

「・・・高い方」
「(一ノ瀬さんの身長は179cmですから・・・望み有ですね!)
・・・あ、逆に羽島さんの苦手なタイプって聞いても良いですか?」
「・・・・・・・・・苦手、ですか?」


ふむ、と細い指を顎に当て、軽く首を傾げる栞だったが暫くして小さく声を出す。

「・・・ぁ、」
「どんな方なんですか?」
「(兄が)おしゃべりで理屈をこねる人は嫌いなので、お付き合いは出来ないですね」


栞はぼんやりと兄の嫌いなタイプを思い出した。
兄の天敵と似た系統の人物と付き合ったらどうなるかなんて、火を見るよりも明らかだ。

幸いトキヤはおしゃべりではないし、理屈をこねるというよりは理論派な性格なので多分大丈夫だろう。


・・・・・・そういえば最近兄さんに会ってないな。
今度トキヤ君と一緒に会いに行こうかな。


そんな事を考えている栞は春歌がどんな顔をしていたのか、どんな事を考えていたのかなんて知る由も無かったのだった。

201209XX