!『乙女』if話
!レン幼馴染ver→設定は
此方『・・・名前は、何と言う?』ああ、これは――だ。
灰音は身体が思うよう動かない中、ただぼんやりと今の光景を眺めていた。
ただぼんやりと、何をする事もなく。
そして一つの事を悟る。
―――これは、
『・・・"今"の私に名前なんて、無い』
『・・・そうか。
なら名前を付けよう。今日から、』
『―――要らない。
貴方に付けられずとも自分で付ける。
・・・私の、名前は・・・』これは、夢だ。
そしてその夢ももう終わる。
灰音は徐に重い瞼を持ち上げ、意識を浮上させた。
♪
「灰音!灰音、今まで何処に、ぶっ」
「・・・五月蝿い、静かにして頂戴」
ばしん、と掌でレンの顔面を軽くはたいた銀髪の少女の瞳はいつになく冷ややかだ。
レンはその事に気付くと同時に顔を引き攣らせた。
「・・・灰音、その格好・・・」
「貴方の執事に無理矢理連れてかれた結果がこれよ。
全く労働基準法は一体何処に行ったのかしら」
「・・・基準法って、」
「中学生未満を働かせようとしている時点で違反していると思わない?」
「・・・・・・」
レンは次々と放たれる容赦の無い台詞の数々にとうとう沈黙した。
分かっていたが銀色の少女、もとい草薙灰音に口で勝てる気がしない。
というか負ける気しかしない。
男性が力に特化している分、女性は口達者だと言うのは本当らしい。
・・・知りたくなかった事実だ。ではなく。
そもそも労働基準法違反と言っているが灰音は年齢不詳だ。
恐らく自分と同年代位だろうと予想はしているが今は閑話休題。
「ジョージに言って手加減して貰、」
「断固拒否」
「・・・だよね。
あ、灰音其処のソファに座ってくれる?
怪我の手当をするから」
「いらな、」
「俺がしたいからするんだよ。
・・・ダメかな?」
「・・・・・・」
捨て子のような、悲しそうに微笑するレンに灰音は無言の末溜息を一つ吐いた。
この瞳には勝てない。
灰音は今着ているくたびれた白衣緋袴のうち、白衣を徐にまぐし上げるのだった。
♪
「今日はどんな事をしたんだい?」
「別に。
どの速度までなら対応して避けられるか、それだけを只管三時間続けていただけ」
「三時間・・・」
この二人の関係は世間的に見れば主従関係という単語が一番相応しいだろう。
実の両親からDVを受けた事から始まり、諸々の過程を経て円城寺の手引きによって神宮寺家三男のボディーガード見習いとして入らされた灰音。
ある日、円城寺の計らいにより、身辺警護する気等毛頭無かった灰音とその警護対象としてレンと顔を合わせた時の会話は以下の通り。
『・・・ジョージ・・・この娘、誰?』
『今日からお前の話し相手の草薙灰音嬢だ』
『・・・話し相手、ですって?貴方さっき言ってた事と違、』
『それも本当だ。まぁ兼業といっても良いな』
『ふざけ、』
『では頼んだぞ』
『待ちなさい止まりなさい話はまだ終わってないわよ』
『・・・えっと』そんなやり取りがあったその日から奇妙な主従関係が始まったのだ。
「・・・全く、でもこれ位の方が鈍った身体には丁度良いかもね」
「否、灰音は病み上がりなんだから本当なら安静にしておかないといけな、」
「敵はそんなの待ってくれないと思うけど」
「そういう物騒な返しは要らないから!
ていうか今のままでも強いと思うけどダメなの!?」
「今の体力だと冬眠明けの熊を一撃で倒せるか怪しい」
「一撃じゃなくても倒せたらそれで充分だよ!!
一度聞こうと思ってたけど、灰音とジョージって一体何処がゴールになってるの!?」
「最終的には前面にいる人間を傷付けるのではなく、背後の対象物を断つ事で相手を威嚇・牽制させる事かしら」
「それなんて殺人剣!?」
大真面目に話す灰音は至ってボケたつもりは毛頭無いが、次々と投下されたボケ(にしかレンには聞こえない)に只管ツッコんだレンの息は絶え絶えだ。
そしてこのまま話していても平行線だろうと判断したレンは深くツッコむのを放棄し、話を無理矢理でも方向転換しようと口を開く。
「・・・あー・・・そうだ灰音、今日二胡が届いたんだ」
「・・・二胡?」
「そう、やっぱり灰音の琵琶も良いけど二胡とか他の楽器も弾いて欲しいと思ってね。
また琵琶と違った音色をオレに聴かせてよ」
「面倒臭い」
「お願いだよ灰音」
「嫌」
「灰音」
「だから・・・」
「・・・」
「・・・」
無言の攻防戦に入るも、やがて根負けした灰音が苦々しげに口を開く。
「・・・今日だけだから」
「今日だけじゃなくて毎日でも弾いてほしいな。
灰音の音はよく眠れるからね」
「冗談は顔だけにして頂戴マセガキ」
「ヒドイ!」
軽口の掛け合いもそこそこに、彼女が徐に二胡を奏で始めるのは五分後の事。
以前読みたいとコメントに残して頂いた事もあり、折角なので書いてみました。
レンの幼馴染verだとこういうポジションになります。
ネタの神様が降臨なさったので思うがまま書いてみました。
勿論後悔はしていません。201306XX