過去拍手 | ナノ

!『乙女』
!時間軸:幼少期



「灰音・・・俺は、俺は・・・!」
「・・・」

今にも涙を零しそうな程動揺した海色の双眸に灰音はただただ無言だった。

「俺は俺として、見てほしいんだ。
そ、れは、可笑しい、の、か・・・?」
「・・・」

聖川家嫡男としての立場。
そのプレッシャーはこの子供にとって荷が重いのは誰にだって分かる筈だ。
だが、目の前の少年の家の人間は誰一人気付いていないのか、それとも敢えて黙っているのかは分からないが、それは明らかに彼の為にはならないのは明らかだ。

・・・現に今の彼はその重責に押し潰されそうな状態だ。

「・・・真斗。
それでも貴方はその財閥の長男である事には変わりはない。
現実から目を逸らしていたら見えるものも見えなくなるわよ」
「・・・灰音まで、そ、んな事を言う、のか」
「・・・」

裏切られた。
そんな表情を浮かべた真斗だったが次の瞬間、額に衝撃を受けた事により色々な事が吹っ飛んだ。


べちんっ


「―――!!」
「お馬鹿」
「な、灰音・・・!」
「馬鹿だ馬鹿だとは思っていたけど本当に馬鹿だったとは。
私にとってこの世界の事なんてどうでも良いって前に言わなかった?」
「・・・それが、何だ」
「・・・とどのつまり、貴方が何者であってもどうでも良いって事。
苦しくなったら今まで通り此処に来たら良いんじゃない?」
「っ」


彼女がそれに気付いていたとは思わなかった。
確かに異様な程物事に鋭いし隠し通せていたとは思っていなかったけれど。
人間嫌いの彼女が其処まで見抜いていたなんて。


苦しくなったらその度に彼女の元に来ていた。
彼女も彼女の養父も一人の人間として見てくれたから。
ただの聖川真斗としていられる事が出来た。


「・・・何があったのかなんて聞かないし興味もない。
だから、」
「断る」

彼女の続きの言葉は聞かなくても分かった。
天邪鬼で素直じゃない幼馴染の台詞を遮る事で聞かずに済んだ事に僅かな安堵の気持ちがこみ上げてきたが、其処は表に出さないようにする。

「・・・貴方ね」
「今日は灰音の琵琶を好きなだけ聴く事にする」
「は?」
「もう決めた!これは決定事項だ!」
「待ちなさい、何で私が」
「灰音」
「面倒臭い」
「灰音」
「・・・だから」
「・・・・・・・・・灰音・・・・・・・・・」
「・・・・・・」

双方無言の睨み合いに屈したのはやはり灰音だった。

無表情ながらも屈したのが分かった真斗がすぐに琵琶を灰音に手渡し、曲をせがむのはこのすぐ後の事。


+おまけ+

「灰音、まずは蒼遙姫だ!」
「私に命令しないで頂戴」
「その次は薔薇姫で頼む」
「・・・ねえ貴方人の話聞いてるの?」

恐らく小学生高学年位かな。
此処にきて漸く琵琶ネタが書けました。
ラストの曲のタイトルはある作品からお借りしました。
分かる人いたらコメントして下さったら嬉しいです(*^^*)


201304XX