過去拍手 | ナノ

!時間軸:六人が早乙女学園在学中



全てはこの一言から始まった。

「俺、もうマサの『普通』って言葉を信じないことにする!」
「は?」
「・・・失礼だな一十木」
「イッキ、其れはどう意味だい?詳しく聞かせてくれないかな」
「どうかしたんですかぁ音也君」
「・・・音也が何の脈絡も無く話すのはいつもの事ですが、」

上から音也、翔、真斗、レン、那月、トキヤ。
話の発端である音也は妙に真面目な顔で真斗を見る。

「だってさ!マサの美的感覚?っていうの?絶対に可笑しい!」

見てよ!と大声で叫ぶ音也の手には一つの雑誌。
この雑誌は確か美男美女が沢山載っていることで有名だった筈だ。
この雑誌と先程のセリフがまだ繋がらない残りの五人は微妙な顔をしている。

「で、何処を見れば良いんだい?」
「みんなはこのページの女の子達どう思う!?」

ばっと見せられたページには自分達と同い年位の複数の少女が写っている。
何処にでもあるファッションページだが、やはりレベルが高い顔立ちをしていることは分かる。
    
「どうって・・・皆綺麗だと思うけど」
「あ、この小っちゃな子可愛らしいですねぇ、まるで翔ちゃんみたいで」
「誰が小さいだぁ!?」
「そんなことはどうでも良いんだよ翔!」
「オイ音也お前にとってはそんなことでも俺にとっては重要なんだよ!!」

激怒する翔を他所に話に入らなかった真斗は音也が見せたページを暫く見つめ、トキヤは静観している。
そんな中、真斗がある言葉を放つことで収まらないだろうと思われた事態が収束した。
                                     
「・・・・・・全員普通ではないか」
『は?』

いやに真斗の一言が彼らの耳に大きく届いた気がした。

・・・普通って一体何が?

「・・・・・・聖川さん、何がです」
「何が、とは」
「先程の言葉です。何が普通なのですか?」

―――よく言ったトキヤ(イッチー)!

真斗・トキヤ・那月以外の心が一つになった瞬間だった。

「?容姿の話だろう?よく分からんが俺は皆、普通だと思ったんだが」
『・・・・・・・・・』

この一言で冒頭の音也のセリフの意味を全員理解した。
つまり、そういう事なのだ。

「聖川、本当にそう思っているのか?」
「ああ・・・この女子達には悪いが」
「こ、これは・・・」
「・・・」
「僕はこの小っちゃい子可愛らしいと思うんですけどねぇ・・・」
「だから言ったじゃん!」

真斗の家が財閥だということは知っている。
この学園に通うまで男子校であったことを含めて同年代の異性とは数える位しか接触していない事も簡単に彼らは想像できた。

「マサの中で美人だと思うのは一体どういう子なのさっ!?」
「お前、今までずっと女子が周りにいなかったから女じゃなくて男に興味があるっていうオチなのか!?」
「なっ、そんな訳ないだろう!変な事を言うな来栖!」
「そうだったのか聖川・・・お前人生の半分以上を損しているぜ?」
「違うと言っているだろう、それに誰に言われようが貴様にだけは言われたくないな神宮寺!」
「・・・皆さん落ち着きませんか」
「そぉですよぉ」



  ♪



十分後。

「・・・皆はこの者達が美人だというのか」
「俺達っていうか・・・大概の奴はそう思うんじゃねぇか?なぁトキヤ?」
「何故私にふるんですか」
「無駄だよオチビ、イッチーにはそういう話をしても」
「・・・そうだな」
「・・・・・・・・・・・・どういう意味ですか」
「おや良いのかいイッチー」
「何の話?」
「翔ちゃん、僕たちにも分かるように話して下さいよぉ」
「・・・・・・そ、そうなのか・・・!」

真斗は翔の最初のセリフ以外を無視し、軽くショックを受けてるようだった。
その様子に此方の方がショックだ、と言ってやりたくなった。

「・・・だが今のページもだが他のページを見ても俺は来栖たちみたいに綺麗だと思えんのだ・・・」
『・・・・・・』


結局。
聖川真斗の容姿の美醜に関するセリフは信用ならないということと紙屑のように役に立たないということを痛感した一日だった。


+おまけ+

「誰だよ、アイツをあそこまで役に立たなくさせた奴・・・」
「・・・子供の頃から聖川さんの近くにああも狂わせられる位の美人がいたんじゃないですか」


トキヤ大正解。

201203XX