落ち着け、俺。
落ち着くんだ、こんな時こそ冷静にならなくてどうする、来栖翔!
「えーと・・・お前、ピカチュウ、で良いんだよ、な・・・?」
何とか搾り出した声に、ピカチュウ(仮)は何故か俺の目を逸らした。
・・・もしかして俺の言葉が分かんねェ、とか?
アニメでは完全に人語を理解していたのに、この目の前のピカチュウ(仮)は理解出来ないだと・・・!?
自身の思い至った思考に撃沈する。
現状把握しようと思っても、そんなものはたったの数行で終わらせられる。
自室に帰宅→何故か見慣れた生物が自室待機。
・・・数行ではなく一行一文で終わってしまった。
まさかの事実に翔は深く嘆息する。
「とりあえず、学園長の所に・・・?
否、あのおっさんの所に行くには人目が、なぁ・・・」
「ピカ?」(だから学園長って誰ー?)
「かといってお前をこのまま放り出すわけにも・・・」
「ピーカ・・・」(言葉通じてよー・・・)
「ん?ああ、この部屋に置いても良いんだけどよ・・其の、相手が、なぁ・・・」
光理の鳴き声に翔が何を勘違いしたのか、それまで独り言だったのが光理に向けて話しかける。
次いで台詞が段々と尻すぼみになりつつ、光理から視線をズラして何処か遠い目をする。
翔の同室相手、四ノ宮那月。
可愛いもの、小さいものには目が無い性格。
腕力が異常で下手をすれば圧死する恐れ有。翔のライバルと同時に天敵に近い。
・・・・・・・・・・・・。
翔は再度視線を元に戻し、目の前の存在を凝視する。
・・・・・・うん、間違い無く那月の諸好みのど真ん中だ。
しかもコイツは俺より小さい。
捕まったら最後、コイツは為す術も無く圧死するに違いない。
翔はそう判断すると、光理の身体――人間の身体風に言うと肩に手を置き、真剣な表情で忠告した。
「良いか、金髪眼鏡で常に笑顔を振りまいてる大男に出会ったら即逃げろ!
死ぬぞ・・・!!」
「・・・・・・・・・」
翔の戦々恐々とした表情と声とその内容に、光理は凍りついた。
死ぬの!?
何その情報!ていうか怖ッ!
いやいや、その前に私を元の姿に戻して元の世界に帰してー!
光理が内心で絶叫すると同時に再び足音とドアがバーン、と凄まじい音を出して開け放たれた。
「翔ちゃーん!
あっなんだぁちゃんと部屋にいるじゃないですかぁ。
もう翔ちゃん、電話に出て下さいよぉ・・・あれ?」
「なっ、那月・・・!」
「・・・・・・」
光理はいきなり入ってきた男を凝視した。
そして同時に先程の翔の台詞をもう一度思い返す。
・・・金髪眼鏡で常に笑顔を振りまいてる大男・・・。
・・・・・・・・・・・・あれ本人?
光理は自身の死亡フラグならぬ圧死フラグが乱立している事に気付かなかった。
自身を映した那月の目が輝きを増したことにさえも。
天敵(仮)とのエンカウント
電気鼠って言うんだから当然固有技がある筈なのにそれを忘れてしまっている翔。
恐らくまだ気が動転しているんだろうな・・・。
20120430