花片ファンタジア | ナノ

!音也視点


「―――え、私ですか?」

担任の先生―――えーとリンちゃん(って呼ばせて貰おうかな)にいきなり指名されたのは俺と少し離れた、何処か気弱な印象を受けた女の子。

「そうよん!最初だけど頑張ってね!」
「は、はい・・・!」


ガタン!と勢い良く立ったその女の子は椅子が倒れるんじゃないかって思う位の音をたてた。
実際、その音は教室に意外と響いた為か、女の子は更に慌てていた。



・・・何というか、


「えと・・・その、・・・七海、・・・春歌、です。
作曲家志望ですっ。よ、宜しくお願いしま、(ガチッ)」


・・・・・・今、噛んだ音がしたような・・・だ、大丈夫かな?
顔も赤いし、恥ずかしいって感じたのか、さっきよりも慌ててる。

―――俺の中で、七海春歌は大人しくて、ドジな女の子、という認識が強く残った瞬間だった。

「ふふっ最初だったからやっぱり緊張しちゃうわよねー。
じゃあ次は・・・其処の貴方っ!」



  ♂♀



次々とりんちゃんに当てられていく中で俺の番はまだ回ってこない。
早く言いたいなぁ、なんて思ってると。

「今度は其処の黒髪の貴女っ!
宜しくね!」
「―――はい、」


・・・俺の隣りの席に座っている女子―――平和島が当てられた。


―――平和島栞。
入学式の前に教えて貰った苗字、"平和島"に思いっきり反応してしまった俺。
マサや那月は知らないみたいだけど、俺は噂で知っていた。
彼女に、何かあった訳じゃない。
会ったのも今日が初対面。

じゃあ何でこんなに反応してしまったのかというと答えは簡単。
池袋で最強と言われる平和島静雄と同じ苗字だったから。
噂では車をサッカーボールの様に蹴り転がし、両手でガードレールを引っこ抜き振り回す。
そんな平和島静雄と険悪の仲とされる折原臨也は24時間戦争コンビと名付けられる位、東京では有名だ。


その平和島静雄と同じ苗字だからって必要以上に反応してしまった時の彼女の顔は無表情なのに何処か、見定めるような目をしていた。
ううん、それだけじゃなくて俺を、責めるかのような。
気の所為かもしれない。だけど、きっと気の所為じゃないと思う。


―――俺の、俺すらも知らない心の奥底を覗かれたような気がした。



静かに立ち上がり、一切の表情を出さない平和島の姿。
ていうか折角美人なんだからもっと笑ったら可愛いのに!
口元しか動いてないとか勿体無いよ!


「・・・平和島栞、アイドルコースです。
一年間宜しくお願いします」

軽く頭を下げる事で腰まで伸ばされた真っ直ぐな黒髪が音をたてて平和島の肩を滑り落ちる。
・・・うわぁ、分かっていたけれど本当に綺麗だなぁ。
表情というか感情をあまり出していないから余計に人形っぽい。


「へ、"平和島"?」
「平和島って、あの?」

平和島が名乗った瞬間、クラスの一部がざわつき始めた。
多分動揺したクラスメイトは噂を知っている人達だ。

「あらぁそれだけ?
折角だし何か特技の一つでも此処でやってみせて平和島栞ちゃん!」
「―――特技、ですか」

りんちゃんや平和島はそんな一部のざわつきを気にしていないのか、二人で話を進めてる。
ていうかりんちゃん、いきなり何か特技披露しろって言われたら流石に平和島も困るんじゃ・・・。

「・・・・・・分かりました」

ほら平和島も無理だって・・・・・・、え?
今なんて?

思わず平和島の顔を二度見しようと振り向いた俺の耳は平和島の歌声を捕らえ、息を呑んだ。


平和島は自分のオリジナル曲だろうか、俺の知らない曲を歌っていた。
今までの無機質な声とは違う、惹きつけられる様な、歌。


もっと聴いていたい、と思わせる歌に俺も皆も―――Aクラス全体が言葉を出す事が出来なかった。

  赤色少年の考察


という訳で音也視点のお話。
因みに主人公が歌っていた曲は次の話で明らかに・・・なるのだろうか。

20120716