花片ファンタジア | ナノ

迂闊だった。
としか言いようが無い。

そうだよ、モデルの仕事をしていた時に一ノ瀬君(仮)に会ったじゃん!
精神崩壊寸前の一ノ瀬君(仮)に!
相談まで受けた癖に『原作』開始時期を見誤るなんて間抜けすぎる・・・!!

そう栞は内心で荒れていたのだが、目の前の少年が怪訝な表情を浮かべている事に気付いた。





「平和島・・・?」
「・・・・・・?」

あれ、何でそんなヘンな顔してるんだろ・・・。
・・・否、この反応には見覚えがある。
というより、何度も経験したことがある。

「あ、ううん何でも無い!えーと平和島、さんだよね。
これから宜しく!」
「・・・此方こそ」


この反応。
私が姓を名乗ると地元の、池袋の人ならば必ず引き攣った様な表情をされる。
理由は言わずもがな、シズ兄さんだ。
きっとこの目の前の赤い少年――― 一十木君も噂を知っているからこんな反応をしたのだろう。

・・・私は噂で人を決め付ける人間はあまり好きじゃない。
心にも無い噂で兄さんはずっと傷付いてきた。
驚く程沸点が低いけど本来の兄さんは穏やかな瞳をした、優しい人だ。

本来の兄さんと話したこともないのに噂で勝手に決め付ける。
だから私は、噂で人を決め付ける人が好きじゃない。


栞は音也を波紋の無い水面の様な瞳で見つめる。
音也をまるで見定めるかのような瞳に音也は身動ぎした。
口数の少ない栞に音也は話題を変えようと口を開いた瞬間、違う声が二人の耳に入ってきた。


「・・・一十木か、久しいな」
「え?」
「・・・」

今度は一体誰だ、と内心胡乱気な表情で声の持ち主を視界に入れた瞬間、栞は今日で何度目か分からない後悔をする羽目になった。


「あ、マサ!」

パッと一瞬で笑顔になった音也の朱色の双眸には青い髪の男性を映し出していた。
つられて其の男性を栞も見てしまい、思わず絶句した。

「・・・・・・・・・」


出たよ、Aクラスのお相手二人目!!
うわ、本当に青い髪なんだ!
一十木君の赤い髪といい、何だろうこの世界。
どういう遺伝子?貴方達、本当に日本人か!


栞の方向性のよく分からない突っ込みは、声に出ることは無く心の中に消えていったのだった。

  無色と赤色と青色


5000hit企画にて続編希望のリクエストを頂いたのでupしました。
遅れてすみません(汗
公式にて音也は東京出身だったので静雄の噂は聞いてるだろうな、と思ったのでこの話になりました。

20120422