・・・とうとう来てしまった。
栞は後悔の嵐に見舞われながらも、早乙女学園の制服に身を包み、門をくぐる。
―――さあ、波乱万丈学園生活の幕開けだ。
♂♀
(・・・確かAクラスだっけ)
合格通知書に書かれていた自分のクラスをぼんやりと思い出しつつ、校内案内図を見ながら歩く栞。
無表情ながらも類稀な美貌を持つ彼女に視線を注ぐ周囲の人間がいることに栞は当然気付かない。
何故なら。
(・・・・・・それにしても広すぎる。
え、此処って一年制でしょ?
無理無理構造を把握する前に一年が終わる・・・!)
などと、無表情の下で内心この学園の構造の広さにただただ茫然とし、それ所ではなかったからであった。
そして無事彼女はAクラスに到着し、ガラリと扉を開ける。
栞は普通の行動をしただけである。
しかし、彼女が扉を開けた瞬間、Aクラスにいた生徒の大半の視線が栞に集中した。
(・・・え、何でこっち見てるの!?私変な事したっけ!?)
・・・扉、開けただけだよね。
じゃあ何でこんな拷問紛いのことを受けなければならないんだ。
これもあのおじさんの所為か。
・・・・・・帰りたい・・・。
「・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・とりあえず、席に着こう。
そうすればこの居た堪れない視線や空気からは逃れられる、筈だ!
栞は無表情の下、そう決断し一度グルリと教室を見渡して空いている席に着く。
・・・そういえば『原作』開始時期はいつ頃なのだろうか。
まさか今年ではないだろう。
流石にそれは虫が良すぎるってモノだ。
「ねぇ!此処って空いてる?」
「・・・ぇ?」
明るい男性の声が栞の耳に届き、思わず俯いていた栞は顔を上げて声の主を確認する。
―――其処には、原色の赤色がいた。
「―――!」
赤い髪。朱色の双眸。
栞と比べると浅黒い肌。
人懐っこそうな印象を与える笑顔。
・・・何故か彼も朱色の双眸を開いているのが気になったが、今は置いておこう。
「・・・あ、えーと・・・その、いきなり話しかけてゴメンね。
此処の席、空いてる?」
「・・・・・・(ハッ)空いてますが」
「そっか!ありがと!」
驚いた表情を見せた後に浮かべるのは明るい笑顔。
―――自分の感情を素直に出せる人なのだ、と彼女はこの時、ぼんやりとそう頭の何処かでそう思った。
自分はこの少年を知っている。識っている。
この赤い少年を。
「あ、俺一十木音也って言うんだ!
君の名前は?」
「・・・・・・平和島、栞」
"前"の世界で見たことのある名前とその容姿に、思わず栞は天を仰ぎたくなった。
―――こんな展開を望んだ記憶は無いよ神様!!
わあぁぁぁと内心絶叫した彼女に、音也は気付く筈も無く。
波乱万丈学園生活開始!
まずは音也君登場しました!
いずれ音也視点の話を書く予定。
20120408