虹色理想郷 | ナノ

!誠凛VS霧崎第一戦後



誠凛にある噂が流れているのは知っていた。
しかしその内容があまりにも現実離れしていた為、花宮が気にも留めていなかったのは仕方が無かったと言える。
―――否、この場合は花宮だけではなく"彼女"を知らなかったら誰もがそう思うだろう。


だが現実にはこんな慣用句がある。
『火の無い所に煙は立たぬ』

もう少しその噂について耳を傾けていれば、今のような思いはしなかっただろうしこんな屈辱も味わう事はなかっただろう。


それ位、彼は痛烈に後悔していた。

一人の人外によって。



  △▼△



「わはは、―――やあ花宮君、初めましてこんにちは。
僕は別に名乗らないぜ、どうせ知っているだろうし君達に覚えて欲しいともあまり思っていないしね」
「・・・何なんだよ、アンタ」
「僕かい?おいおい敵陣の事も碌に知らねーのかよ、そんなんじゃ足元掬われるぜ・・・だからこそ今日の試合で最後の最後で敗北したんだけどね」
「・・・・・・ははっ」

思わず乾いた笑い声が出るが頬に伝う脂汗が花宮の余裕の無さを表している。
身長も低く、非力そうに見える長髪の女子生徒。
しかしその華奢な体躯からは考えられない位の圧力に屈しそうになるのを花宮は必死で耐えていた。


・・・この女。
確か誠凛の―――。


「『反則指定オルタネートレギュレーション』、フェアプレイのスキルを課しても良いかなーと思っていたんだけど黒子君に手出し無用とお願いされちゃったからね。
とりあえず何とか勝ってくれて良かったものの、負けちゃったら僕の目的も彼の願いもおじゃんになるところだったよ。
まあ彼が其処のところを本当に分かっているのかは別として、つまり僕が言いたいのはね」

「・・・」

「僕の目的(人から見れば目的なんて無いのかもしれないけど)をあんな形で邪魔されるのは球磨川君ならまだしも不愉快なんだよねえ。
ホント、『一方的な一撃アドバルーンアタック』、反撃不可能のスキル『痛い系パッチテスト』、ダメージを与えず痛みだけを与えるスキル『同時情映セーラーセイム』、対象と同じダメージを受けるスキル『精神叩きパッシングパッション』、精神を殴るスキル『壊死三倍化トリプルネクロティック』、倍のダメージを受ける代わりに三倍のダメージを与えるスキル『こっちが殴ったら終わりパースペクティブリベンジャー』、復讐のスキルを君に味合わせても良かったんだけど流石に非異常・・・否どちらかと言えば『過負荷』寄りの君にそれをするのもどうかと思ってね。
まー別に君がどうなろうと、それこそ生きようが死のうが僕には等しく平等にどうでも良いんだけど、あまり後味が悪いと『物語』上問題アリだ。
それは僕の望む展開じゃない」
「・・・」

花宮は賢明にも沈黙を保った。
しかし内心は色々突っ込みたかった。
ていうか球磨川って誰だ。


そもそも実しやかに流れる、誠凛の噂。
それは『誠凛のマネージャーは人外である』というもの。

何でもサッカーゴールを軽々片手で持ち上げる、野球とサッカーとバスケを同時に出来る、実は二十年前から容姿が変わらない等等。

いくら何でも誇張し過ぎだろうと鼻で哂っていたが、前言撤回。
先程のよく分からないスキルとやらの羅列を聞いて背筋に冷たい汗が流れたのを感じた。

この女はただの女ではない。
人間とは別の、もっと違うナニカ。

ベンチで見た穏やかな笑みを浮かべていた少女と同一人物には見えない。
今のこの女の笑みはオレよりも誰よりも人そのものを見下している。


「は、・・・オレにどうしろと言うんだよ。
もうしませんすみませんでした、とでも言って欲しいのか?」
「いや?ぶっちゃけて言うと僕の知らないところで君が何していようと勝手だし興味が無いしね。
口約束程当てにならねーものは無いし。
それなら『有限実行ネクストオネスト』、言葉が実現するスキルを君に使ってしまえばそれでオシマイだ」
「・・・言っている事も言いたい事もよく分からねーな、結局どうしたいんだよお前」
「僕は退屈が嫌いでね。
退屈は最早僕にとって唯一殺せる毒なんだぜ、君とのこのやりとりもまあつまりただの退屈しのぎ、暇つぶしってわけだ」
「・・・・・・・・・あ゛?」


退屈しのぎ、暇つぶしだと?
たかがそれだけの為にこんなわけの分からない、それこそ会話も成立していない会話をしていたと?


花宮の眉間の皺がより深く刻まれる。
しかし少女、安心院つゆりの余裕の笑みは消える事は無い。
むしろ深まっている気がする。


「おい、ふざけんなよ安心院つゆり」
「僕のことは親しみを込めて安心院さんと呼びなさい」
「こんなわけの分からねえ空き教室に放り込まれて言える台詞か!!」

現在、二人がいるのは何処かの空き教室。
ちなみに意味不明のままこの空き教室に来た事があるのはキセキの世代と黒子(余談だが人吉も)だったりするのだがその事実は花宮は知らない。

「わはは・・・・・・げらげらげら
全くそんな些細な事を気にするなよ、時間が来れば元の場所に戻れるさ。
それまではこの僕の暇潰しに付き合いたまえ、君の好物であるカカオ100%チョコならぬチョコ100%カカオも揃えているんだからさ」
「なんだそのよく分からない周到さは!しかも何処から情報を得た!?」
「げらげらげらげら」
「てめえこの馬鹿女!つかチョコ100%カカオって何だ!?最初と最後を入れ替えただけで全然意味が違ェだろ!」


それから暫く、空き教室にて花宮の怒号とつゆりの笑い声が響き渡る事になるのだが、花宮の意識が覚醒するまでそれは続いたのだった。

  彼女の方が数枚上手です

というわけで巷で人気な花宮と絡ませてみた。
ネタを提供して下さった桜子様、有難う御座いました!
こ、こんな感じで良かったのだろうか・・・。

20140302