虹色理想郷 | ナノ

「・・・なあ半纏」
「・・・」

つゆりの問いに半纏が答えないのはいつもの事だったがこの時の沈黙は違っていた。
何故か。

「・・・半纏。
いつもなら流してやるけど今回という今回はダメだ。
君、胃袋は丈夫な方かい?」
「・・・」
「・・・」

ピキ、と彼女の米神に青筋が浮かび上がった、その瞬間。

「・・・おい」

くるり、といつも己の背後にいる存在、半纏の正面に回り込んだつゆりの表情は眉が逆ハの字になっていた。

「!」
「僕は君に質問しているんだよ、半纏?」
「・・・つゆり・・・」

・・・久々に見た、つゆりの顔。
相変わらず綺麗な顔だ。
怒っても尚、綺麗だと思えるのはつゆり位だろうな。

・・・ではなく。

「・・・・・・俺の胃は普通だ」
「だよなあ・・・」
「・・・一つ聞くが、それは何だ」
「・・・・・・何だと思う?」
「・・・・・・暗黒物質」

というかそれはこの世のものでは無いだろう。


そう放った半纏の言葉につゆりは苦々しい顔を浮かべ、徐に手に持ったモノを見る。

「一応、これ卵焼きらしい・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・」
「卵焼き?」
「そう」
「卵焼きというか、これは最早可哀想な卵だろう」
「・・・・・・」
「俺の知っている卵焼きとは全然違うな。
つゆりが前に作ってくれた卵焼きの方が味も見た目も相当良かっ」
「いつの話をしているんだよ」

真顔で話す半纏につゆりは頬を引き攣らせる。

・・・本気だ、この眼は。
無意識か確信犯か知らねーけど確実にタラシの可能性が高い。


「一応聞くがこれはつゆりが作ったのか?」
「・・・これは桃井ちゃんの作品だ」
「桃井?」
「つまり・・・」


つゆりは徐にこれを貰った時の事を話し始めた。



  △▼△



「黒子っち逃げて超逃げて!」
「は?」
「兵器が・・・兵器が来る・・・っ!」
「何を言っているのだよ黄瀬?」
「詳しく話してる暇は無いんスよ!
兎に角今は逃げるのが先決、」
「テツくーん!!」

「来たっ・・・!」
「ま、まさか」
「兵器とは桃井の料、」

嘗て経験した事のある黒子、緑間はさっと青褪めた。
そして黄瀬の言わんとする言葉を正確に理解し―――逃亡しようと腰を浮かせた瞬間、小悪魔がご到着された。

「見て見てテツ君!
今日調理実習で卵焼きを作ったの!
だからテツ君に食べてほしいなーって思って・・・キャー!」
「・・・た、卵焼きですか・・・?」
(・・・何処からどう見ても焼けた卵なのだよ)
(桃っちには悪いけど食べた瞬間卒倒しそうな感じがするっス)

怪しげな煙が漂っているのは気の所為ではあるまい。
確実に腹痛後に気絶→保健室行きコースだ。
下手したらICU行きかもしれない。

「?どうかした?」
「・・・いえ・・・」
(黒子っち、もしかして食べるんスか!?)
(黒子・・・せめて骨は拾ってやるのだよ)


十割の同情を含んだ視線に黒子は二人を恨めしげに見詰めた。
そんな目で見る位なら助けてくれ。

・・・そんな時。
彼等にとっては運良く、彼女にとっては運悪くその場面に遭遇してしまった。

「やっほー黒子君!
ちょっと聞きたい事があるんだけど今大丈夫かい?」
「安心院!?」
「っ丁度良かった安心院さん、前に桃井さんの手料理を食べたいと言ってましたよね!?
宜しければ此方を食べてみて下さい!」
「えっそうなの、あーちゃん!?」
「・・・は?」



  △▼△



回想終了。
つゆりにしては珍しく押し切られる形でこの卵焼き(仮)を押し付けられたという訳である。

「・・・スキルで何とかならなかったのか?」
「何とか有耶無耶にして逃げた結果がコレさ。
それにしても卵焼きでこの成れの果てか・・・これもある意味才能だな。
某マフィア漫画で言うとポイズンクッキングか」
「食べるのか?」
「確実に肉体に異常を来たすのが分かってるのに食べると思うかい?」
「・・・無理だな」
「だろう?」
「・・・だが、」
「?」
「つゆりが作ったものなら、食べる」
「・・・・・・」

きょとり。
言葉にするならそんな表情でつゆりは固まってしまった。
一方の半纏はその表情を浮かべたままのつゆりを見つめた。

・・・本心を言ったのに何故固まる?


「・・・どうかしたか、つゆり」
「・・・君、思った事をそのまま話すの暫く禁止」
「!?」

僅かに頬を染めた彼女に半纏が気付くのはそれから五秒後の事。

  彼女の殺人兵器

外伝は多分目高sideになるかな。
主に半纏さんが出演するかと。
人外の彼等ですらも躊躇うものを作れる彼女は流石です、というべきか。
ネタの提供、有難う御座いました!

20130303