虹色理想郷 | ナノ

!高校編@
!時間軸:WC決勝戦前夜



火神大我は気付いたら何処かの教室にいた。
そう認識するまで幾拍かかかってしまったが、それでも自分の今いる場所は全く知らない場所ではないものの、いつ此処に着いたのかという記憶にはなかった。


「・・・此処、何処だ・・・?」


少なくても現在自分が在籍する誠凛では無い。
・・・というか。


「つーかオレバスケの練習してたんじゃなかったか!?
それに明日は赤司んとこと決勝で・・・」


教室の真ん中に位置する席に普通に座っていたが、徐々に記憶が蘇ってきた。
その拍子で火神はガタンッと荒々しく席を立つ。


「そうだオレは明日に備えて寝ようとしてたけど全然寝れなくて・・・。
って事は此処は夢の中か?
つーか何で学校にいるんだよ!
それとも記憶がないだけでオレ実は夢遊病とか、」

一人、軽くパニックになった火神。
しかし此処で新たなる人物による声が火神の狼狽を沈静化させた。


「―――そんな訳無いだろ。
馬鹿か君は」
「!」
「そもそも夢遊病というのは睡眠中に起こる人間の異常行動の一つで、無意識のまま起き上がって徘徊等何らかの行動を起こした後、自分一人で寝床に戻るっていう現象なんだぜ?
君、一人で寝床に戻っていないじゃないか。
それが何よりの証拠だ」


くるり、と振り返る。
其処にはロッカーの上に優雅に座った女子がいた。

黄色のヘッドバンド、艶やかな黒髪。
余裕のある微笑が誰よりも似合う、容姿端麗な少女。
ブレザーとニーハイを身に纏った少女に、不覚にも火神は僅かに顔を赤らめた。


「あー・・・お前、誰だ?
オレの知り合い、じゃねェよな」


如何に頭が悪いと言われていても流石に対人記憶能力まで酷くはない。
火神は過去にこんな少女と出会った記憶など、どの記憶の引き出しを引っ張り出しても出てこない。


「うん、今日が初対面さ。
というより僕の事を"彼等"が覚えていなかったら誰でもないよ。
なにせ僕は顔を剥がされたからねえ・・・・・・・・・・・・・・・・
「っ今何て、」
「おっと、今のはオフレコって奴だぜ。
そんな事よりも明日の試合の事なんだけど」
「そんな事って、おいそれどういう、つか試合の事までお前何で」
「その事を知っているのかって?
僕がその程度の事知らない訳無いじゃないか、他ならぬ幼馴染君の事だからね」
「・・・幼馴染・・・?」


軽く右手の人差し指を立てて話す少女に火神は首を傾げる。

幼馴染。
明日の試合。

それはつまり。


「君の影―――黒子君に聞いた事はないかい?
君の対戦相手である征十郎君に幼馴染がいたって事を」
「く、黒子の事も知っているのかよ!?
否、その前に赤司の幼馴染だと―――!?」


この目の前の少女の言う事を信じるなら、赤司とこの少女は幼馴染の関係にあたるらしい。
そしてこの口ぶりから恐らく黒子とも知り合い。
という事はこいつも帝光中出身―――!


「ま、今はまだ考えなくても良いよ。
起きたらどうせ忘れている」
「いや、ちょっと待てよ!
オレはお前にはまだ聞きたい事が―――」
「・・・」


ロッカーの上に依然と座る少女は、彼の力強い視線を真っ向から受け止める。
そしてスッと右手の人差し指で目潰しをする寸前で止めた少女に火神はピタリ、と氷のように動けなかった。


「良いから今回はもう帰りなさい、火神君。
もうこの空間は保ちそうにないし、何より時間だ。
・・・だけどそうだね、これだけは言っておこうか」
「な、」
「征十郎君は強敵だ。
例えるなら、この世がもしも『週刊少年ジャンプ』に連載されている漫画だったら彼は所謂ラスボスって奴だ」
「・・・はぁ?」


いきなり何を言うのだろうか。
知らない内に構えていた自分がバカみたいだ。


「だけどラスボスっていうのは主人公に負けるのが決まっている存在でもある。
全く球磨川君じゃないけど、ある意味負けが決まっている人生って事かな」
(・・・くまがわ?)


謎の単語だらけで火神の脳内に疑問符しか沸き上がらなかった。
火神が再び口を開けようとしたその瞬間。


「・・・嗚呼、もう終わりだね。
じゃあ火神君、WC編が終わった頃にまたおいで。
もう黒子君を泣かせちゃあ駄目だよ―――」


何で黒子が前に泣いた事を知っているんだ、とか。
WC編って何だよ、とか。
言いたい事は沢山ある。

だが火神がそれを言う前に夢が終わってしまった為、その台詞が彼女に届く事はなく。
そして―――。



  △▼△



「よぉ、赤司。
今日は勝たせて貰うぜ――ー!」
「火神大我・・・やれるものならやってみろ」


対戦の火蓋が、切って落とされた。

  彼女なりの激励なのです

『虹色』初のシミュレーテッドリアリティ発言です。
ネタの提供、有難う御座いました!
とても楽しく書かせて頂きました(*^^*)

20130207