虹色理想郷 | ナノ

!高校編A
!洛山高生徒



京都、秋田と六校で行われた大規模な合同合宿。
人数が人数なだけに、アクシデントは付き物だと言える。

故に、とある人物が突然の事故により負傷してしまうのもある意味仕方のない事と言えた。



  △▼△



「あっ危ないテツ君―――!」
「!」
「黒子っち!」


ゴッ!!


体育館に響く鈍い音。
その音の発信源は黒子だった。
ボールが当たったであろう額に掌を当て、体育館の床に力無く倒れている黒子の姿にさっと皆青褪めた。


「オイテツ、大丈夫か!?」
「黒子君!?」


ザワッと不穏な空気に包まれた体育館。
黒子は依然、掌で顔を覆っているがそれでもじわじわと血液が滲み出ているのが分かる。


「テツ君血が・・・!」
「救急箱をすぐに取って来るっス!」


黄瀬がそう叫び、救急箱を取って大袈裟でも良いから兎に角応急手当をしようと思ったその瞬間。


「・・・否、その必要は無い」
「赤司っち!?」
「赤司!?」


騒然とする彼等に赤司のいやに冷静な声が響き渡る。
嘗てのチームメイトが負傷しても尚、冷静さを失わないその姿に言いようのない感情が背筋を伝う。


「ちょ、征ちゃ」
「・・・いるんだろう、つゆり」
「―――勿論、僕は何処にでも現れるスキルを持つ人外だぜ?
こんなの朝飯前さ」


ふわり、と突然現れた少女にぎょっと瞠目する者は決して少なくない。
ただ中学時代ではいつもこんな風に登場していた為、ある程度耐性がついていたキセキと桃井は他のメンバーより驚きは浅い。
しかし、それでも声は冷静さを失っていた。


「安心院・・・!」
「あーちゃん・・・!?」
「やっほー久しぶりだね皆。
そして今回の怪我人は君かい黒子君・・・まぁ君は存在そのものを認識しにくくする特技を持っているから仕方ないかもしれないけど」
「あーちゃん、今はそんな事どうでも良いから・・・!」
「つゆり」


桃井による必死の懇願と赤司の催促、そして黄瀬達の目による訴えにつゆりは軽く溜息を吐く。


「・・・そうだね、じゃあ黒子君心の準備は良いかい?
つーかまだなんて言わせねーけど、ね!」
「なっちょ、貴女・・・!」


リコの慌てた声を無視し、つゆりは一京分の一のスキル、活舌性アクティブトークを発動させる。
痛みと出血による意識の混濁でつゆりの声にすら反応出来なかった黒子だったが次の瞬間、徐に上半身を起こし、空色の双眸につゆりを映した。


「・・・安心院、さん・・・?」
「やぁ黒子君」
「っテツ君!大丈夫!?
あーちゃんが治してくれたけど血は沢山出てたし貧血とか・・・!」
「桃井さ、」


がばーっと抱きついた桃井の眦に涙の膜が張ってあったのを彼は見逃さなかった。
申し訳なさがじわじわと出てきて、俯いた黒子につゆりは普段と何ら変わらない声音で語りかけた。


「・・・怪我をしてしまうのは別に悪い事じゃない、寧ろスポーツに怪我は付き物だから僕は気にしなくても良いと思うけどね。
だけど桃井ちゃんを泣かせてしまうのは感心しないな」
「・・・安心院さん・・・」
「今回僕が使った活舌性アクティブトークは活性を司るスキル。
傷は治療出来ても桃井ちゃんの言う通り、貧血になるかもしれないからもう暫く安静にしておいた方が良い」
「・・・すみませ、」
「おいおいこういう時に言う言葉は謝罪じゃないだろ?」
「・・・有難う御座います」


艶やかな黒髪を揺らしながら、徐に足を進めたつゆりが向かうのは赤司の隣り。
最早定位置となっている為赤司も洛山レギュラーも何も言わなかった。
が、しかし。


「ちょっと黒子君!?
傷が治ってるって・・・!?」
「本当ですよ、カントク」
「はぁ!?嘘だろ!?」
「って・・・うおホントに綺麗サッパリ跡も無ェ!」
「どういう事だ・・・!?」


あまりにも現実離れした出来事に誠凛メンバーに激震が走る。
いとも簡単に治療した彼女もそうだが、それを平然と受け止めている黒子達も異常ではないのか。


「・・・ああ、そういえば自己紹介していなかったね」
「そういえばそうだったな。
じゃあ今したらどうだ、つゆり」
「そうだねそうさせて貰おうかな。
何事も最初が肝心だからね。
否、最初が人外だから、と言うべきかな」


彼女の"人外"発言により、一瞬赤司の柳眉が上がるがそれに気付いたのはキセキと洛山レギュラーのみ。
つゆりも、もしかしたら気付いているのかもしれないが彼女がそれに気付いたという変化が見当たらない。

―――そう考えている間も、彼女の言葉は止まらなかった。


「僕の名前は安心院つゆり。
ただの平等なだけの人外だよ」


そう自分の事を話したつゆりの何処かあくどい微笑に、初対面である彼等の背筋に悪寒にも似た何かを感じたのだった。

  彼女は非常に優秀な治癒能力者です

今回は洛山生徒設定にしたのですがあまり生かしきれずに終わってしまった・・・。
合同合宿編は好きなのですが如何せんキャラが多すぎて書ききれないというのがネックですかね。
とりあえず桃っちの主人公呼びは「あーちゃん」にしてみましたが、もしかしたら変えるかもしれません←何

ネタの提供、有難う御座いました!

20130205