!高校編@
ふと、幼馴染の事を思い出した。
久しく会っていない、彼女の事を。
「征ちゃん、危ない!!」
「・・・・・・っ!!」
気を抜いていたのがいけなかった。
今は部活のパス練途中。
彼女を思い出した事により意識が逸れた、その一瞬。
僕は見事に頭にボールが激突した衝撃で意識が途絶えた。
―――普段ならこんな事が起こるなんて有り得ない。
なのに起こってしまった。
・・・嗚呼やはり僕は彼女に囚われている。
△▼△
いない。
何処にも。彼女の姿が。
気付いたらいつも隣りにいてくれた。
傍にいるのが当たり前で、離れるなんて考えたこともなかった。
だから気付かなかった。
「つゆり!何処だ、つゆり!!」
当たり前のような日常が崩れる、まるで世界が崩壊するような感覚。
中学3年の時、突然彼女は姿を消した。
変わった所なんてなかった。
だけど、消える前日に彼女はまるで予言のような言葉を残していた。
『征十郎君、君は僕がいなくなっても平気かい?』
『・・・いきなり何だ』
『いやいや、ふと思っただけさ』
『お前がオレから離れる筈が無いだろ』とりとめのない会話、になる筈だった。
なのに、アイツは僕を置いて消えた。
まだ一度も勝っていないのに。
勝ち逃げなんて卑怯じゃないか。
つゆり。つゆりつゆりつゆり、何処、に
あの時見せた何処か寂しそうな表情。
恐らくアイツは気付いていないだろう、表情。
ソレが意味するものは、
「・・・オレはまだお前に勝てていないんだ。
勝つまでお前を探すのを諦めない。
だから―――」
中学時代、つゆりは姿を消した。
文字通り他の人間の記憶すらも。
今やつゆりを覚えているのはキセキと桃井、テツヤ位なものだろう。
「オレ」という一人称から「僕」に変えたのはつゆりが使ってた一人称だから。
忘れない、誰が忘れても、最後の一人になっても。
―――そして、夢が終わる。
△▼△
「赤司、大丈夫か!?」
「征ちゃん!」
最初に視界に映ったのは"今"のバスケ部レギュラー。
『やれやれ全く世話が焼けるな。
大丈夫かい、征十郎君?』
穏やかに笑いかけてくれる幼馴染を脳裏に浮かべる。
こいつらは彼女じゃない。
大事で大切な、誰よりも愛しい幼馴染。
"オレ"は勝利に貪欲なんだ。
それはつゆりも知っているだろ?
だから―――覚悟しておけ。
心中でそう呟くと同時に赤司は徐に口を開くのだった。
I don't forget you.
赤司の独白でした。
色々考えましたが、今回は主人公が球磨川君に封印された事を知らない時の赤司のお話。
赤司の一人称が高校で"僕"になった理由が封印された主人公を忘れない為だったら、と妄想した結果こうなりました。
20130120