どうして。どうしてこうなったのだろう。
最初の頃は皆、少しだけ才能があるという選手だった。
だけどある頃から皆の才能が開花して、それから。
僕は。僕は答えの出ない袋小路の中で、何度も考える。
きっかけは何だっただろう、いつから歯車が狂い始めただろう。
その答えはきっと全知全能にして万能な彼女のみが知っているに違いないけど。
△▼△
勝たなければならない。
誰が相手でも、何があっても・・・でなければ。
紫原との一方的な流れの中。
赤司は体育館にいた筈なのに気付けば、何故かは分からないがある空き教室にいた。
「!?な、」
「やあ征十郎君」
「現状認識もままならないところ申し訳ないが、君が此処に来るのは本来死んだ時位だからね、僕としても正直驚いてはいるんだよ。
・・・さて、征十郎君。
僕に何か言いたい事があるんじゃないかい?」
「・・・力がいる」
「・・・つまり?」
「――― ――――」
そう告げた時、目の前の幼馴染の顔が昏く哂った気がした。
△▼△
「・・・ふむ。
きっかけが紫原君とは少々予想が外れたけど、まあこれで征十郎君も才能が開花した訳か」
机に座りながら天井を見上げる彼女以外に誰もいない。
場所は生徒会室。
役員は全て出払っているのもあり、廊下からは声すらも響かない。
「という事は、あの教室に来れたのは彼が自分を追い詰めた結果かな。
まー今となってはどうでも良い事か。
・・・さて征十郎君の才能を引き出したは良いが、まさかその反動で人格が変わるとは」
『
他重人格』、別人格にするスキルを使った訳でもねーのに。
そんな事を考えていたつゆりだったが、彼女のいる教室の扉が開いた。
其処には世界が明日終わると言われたような表情を浮かべた黒子の姿が。
「・・・やあ黒子君。バスケ部を辞めたんだって?」
「・・・安心院さん」
「?」
「安心院さんは、知っていたんじゃないですか?
否、気付いていたんでしょう?」
「それは君やキセキの未来についてかい?それとも征十郎君についてかい?」
「両方です」
黒子の射抜くような目につゆりの表情に影が差した。
「・・・知っていたも何も、征十郎君に『
勿体無い資質』、潜在能力を引き出すスキルを使ったのは僕だからね。
ただ人格形成にまで作用するなんて思っていなかったけれど」
「っ・・・可笑しいと思ってましたが、やはり貴女の仕業でしたか。
赤司君の人格を変えたり、僕やキセキの仲をこじらせて・・・萩原君まで傷付けて。
一体、・・・一体、貴女は何がしたいんですか!?」
それは最早慟哭だった。
悲鳴にも近い彼の声が教室中に響いてもつゆりは何も動じなかった。
「そうだね。
僕のせいで君達にいらない傷を付けてしまった。
だから是非とも、僕に償いをさせてくれたまえ」
「・・・・・・!?」
「ま!でもてゆーかさ、僕が特に何をしなくても君達の破局は避けられなかったと思うけどね」
「どういう事ですか」
「おいおい言わなくちゃ分からないなんて事は無いだろ?
君だって歯車が軋む音は聞いていた筈さ。
元々狂いかけていた運命を決定的に壊したのがたまたま僕だったというだけだ」
「・・・良いでしょう。
御託を聞きましょう、安心院さん。
彼等に僕のバスケを認めさせるにはどうしたら良いですか?」
二人の会話はとても中学生がするには空気が緊迫していた。
つゆりは相変わらず飄々としているが黒子は鬼気迫る表情だったから余計にである。
「なあに簡単な事さ黒子君。
パスというのはチームプレイの象徴みたいなモノだけど、君が出すパスを必要としなくなったという事はイコール、彼等はチームプレイを放棄したという事さ。
結果的に君の価値は雲散霧消した、だから君は獲得しなければならない。
一京のスキルを持つ僕でもかき消す事の出来ない強固な価値を。
そうする事で君は初めて、そしてようやく"前"の彼等に戻す事が出来る」
「・・・変わる"前"の、彼等ですか」
昏く、何処か不穏な表情で語るつゆり。
黒子は目の前にいる彼女に初めて一種の恐怖を覚えた。
覚醒した赤司にも恐怖を感じた事はあったが、それはあの時の比じゃない。
「それが出来たら苦労は無いという顔だが、否これは本当に簡単なんだ。
聞いてしまえば拍子抜けする位にね」
「・・・?」
「『キセキの世代』に勝てば良い。
つまり黒子君、君が彼等を倒すんだ。
悪平等でも勝てない絶対的存在、『主人公』。
彼等に勝てたらそれ以上の価値は無いし、その価値は僕にも消しようがないぜ」
「僕が、彼等を倒せるわけが無いでしょう!
彼等は本物の天才です」
「・・・そうだね、彼等は
特別、君は
普通だ。
だけどそんなの言い訳にもならないぜ。
目には目を、歯には歯を。
天才には天才をぶつけるまでだ」
「!?」
「君一人で無理なら彼等ではない、だけど彼等と同等の才能を持つ誰かを探せば良い。
それでも不安なら僕が一緒にいてあげる。
それなら安心だろう?(安心院さんだけに)」
「・・・赤司君の隣りが貴女のポジションではないんですか?」
「わっはっはっはっは、僕は既に彼に手を貸したからね。
何事も平等に。今度は君の番ってわけさ」
黒子は予想だにしない展開に戸惑いを感じた。
バスケ部を辞めたは良いがどうしようもなく辛い。
退部した事に対してか、変わってしまった元チームメイトに対してか、無力な自分に対してか。
「僕に選択の余地は無いと?
らしくありませんね安心院さん。全く平和的とは言い難いですよ」
「酷いな黒子君。誤解しないでくれたまえ、選択の余地はちゃんと残っている」
「・・・?」
「君がバスケを諦めたら良いのさ。
そうすれば君が辛い思いをしなくて済むし、誰も困らない選択さ」
「!」
「彼等は強敵だ、倒すのは難しい。
だから僕は君に、勝つ事が宿命づけられた存在になって欲しいと思っている」
「勝つ事が宿命づけられた存在、ってそれは赤、」
「その通りだぜ、黒子君。
僕は君に征十郎君をも超える、主人公になって欲しいんだ」
「―――!!」
驚愕に染まる表情。
瞠目した空色の瞳。
「これこそが彼等を倒す為に僕が編み出したウルトラC。
言うなれば究極の抜け道だよ。
『キセキの世代』―――特に征十郎君が絶対に負けない主人公と仮定するなら此方も絶対に負けない主人公を立てれば良い。
主人公対主人公―――これなら負けしかなかった戦いの勝率を五分にまで戻せる」
「・・・具体的な言い方がありませんね。
結局僕はどうしたら良いんですか?」
「読者視点キャラにしかなれない君を主人公にする方法が一つだけある。
それが僕が立案するフラスコ計画だ。
否、
その為のフラスコ計画だ」
「!?」
「簡単に言えば人工的に天才を作るという計画なわけだ。
さあ、選択肢は示したぜ黒子君。
後は君の意思で決めてくれ」
平等。
彼女は確かに平等すぎる程に平等だ。
背景と人間の区別が付かない程に。
だけど本当は誰よりも上に立つが故に、誰よりも人を見下している。
「ちなみに僕が君にこの提案をするのはこの一度きりだ。
君には僕が悪魔に見えているかもしれないが実のところ僕は親切心で君にモーションをかけている。
だからもし君が彼等に認めさせる事を諦めるなら、僕は今日の事を無かった事にするよ」
「軟弱な男に力なんて貸せないね。
青春を謳歌出来る別の舞台を用意してやるから、そっちで青臭く生きろ。
・・・・・・勿論、君にバスケの代わりになる物があるとするならね・・・・・・」
ぎり、と奥歯を噛み締める。
ずっと辛かったけどその分楽しかった。
だから自分と切り離すなんてどうしても出来なくて。
「・・・・・・十秒。
十秒だけ考えさせて下さい。お願いします。
安心院、さん」
「・・・・・・良いだろう。
君の今後に関わる大事な問題だ。
十秒と言わず十五秒だけ考えたまえ」
「・・・・・・」
苦渋の決断。
それは今の彼に相応しい言葉だった。
そして十五秒という短すぎる時間が経とうとした瞬間。
「・・・・・・・・・僕は、」
何かを決める時は覚悟が必要です。
黒子っちの決断。
帝光編が予想以上にヘビー過ぎた。
そして主人公と黒子は誠凛へ。始まる原作。
今思ったけど黒子っちもずっと安心院(あじむ)呼びだったけどこの話がきっかけで安心院(あんしんいん)さん呼びしたら良いと妄想。
20131205