黄瀬は一人物思いにふけていた。
その姿は流石モデルと言ったところか、物憂げな表情も様になっている。
そんな表情をしている原因は一人の少女。
背中まで真っ直ぐに伸ばされた黒髪に夕焼け色の双眸。
世間から見れば充分に容姿端麗と言える。
そんな彼女の名前は折原散葉。
自分の前の席に座るクラスメイトだ。
容姿端麗な彼女だが如何せん、自分は彼女の笑顔というものを見た事が無い。
見た事があるとすれば精々、引き攣った顔に呆れた顔。
どれも笑顔と言うには程遠いものばかりである。
それは自分に黄色い声を出す彼女達とは比べ物にはならない位新鮮なものだった。
自分に全くと言って良い程興味を示さない折原散葉は黄瀬の中で希少価値の高い存在となっていた。
興味本位で彼女に話しかけても笑顔どころか胡乱気な表情で返す言葉。
恐らくというか殆どの確率で、
「・・・嫌われてんスかねー・・・」
ぼんやりと紡いだ言葉は空に掻き消えた。
♂♀
疲れた。
体じゃなくて精神的に。
散葉は疲労困憊を全開で表情に出しつつ机に突っ伏した。
原因は言わずもがな、先程会った兄の信者の少女である。
容姿端麗体型も申し分無しの女の子なのに信者という時点で台無しである。
身内として言わせて貰うが兄は決して神様なんかでは無い。
それ所か最低の人間だと断言できる。
暇だからと言って適当な人間にちょっかいを出して騒ぎを大きくして、最後にハッピーエンドにする訳でもなくある程度の結末を予測すると見切りを付けて、見捨てる。
そして又違う場所で訳の分からない諍いを勃発させるというのが散葉の兄に対する印象だ。
兄の外面の良さに騙されて一体何人の女子が泣いたのか。
散葉は途中で数えるのを止めた位だ、あの馬鹿兄は本当に一回『池袋最強』に殴られるべきだ。
「・・・何で、」
散葉は突っ伏したまま声を小さく漏らす。
何で、兄の知り合いがいるんだろう。
こんな筈じゃ、無かったんだけどなぁ・・・。
うー、と項垂れていると散葉の丸い後頭部に影が落ちた。
次いで響くのはいつも聞くあの声だ。
「・・・折原サン、大丈夫っスか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・ぇ?」
ふとかけられた声に思わず顔を上げてしまった散葉。
其処には金色の髪を眩しく輝かせた黄瀬がいた。
「・・・此れが大丈夫に見える?」
「見えないっスね。
折原サンはいっつも怒っているような表情だったから分かりにくいスけど今の状態は誰でも分かるっスよ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・私ってそんなに分かりやすかっただろうか。
否、とりあえずこの場を収めよう。
と思ったのだが。
「原因はさっきの女の子っスか?」
「・・・っ」
サラリと確信を突いた彼の発言に一瞬、夕焼け色の双眸が瞠目する。
・・・鋭い。
というか何故知っているんだ。
「さっき折原サンとさっきの女の子が一緒に出て行くの見えたっスから、何となく言ってみたんスけどやっぱりアタリ?」
「・・・・・・・・・・・・ノーコメント」
このタイミングでそれを言うと正解だとバラしているようなものだけど、まぁどうでも良いか。
困るのはイザ兄の信者である事と、私がそんなイザ兄の妹と言う事実なのだから。
だから、私はほんの少しの嘘を吐こう。
こういうのは嘘と本当を織り交ぜた方が良い。
散葉はそんな事を考えながら口を徐に開いたのだった。
彼にとって彼女とは
第1章は後2〜3話位かな。
この話一度データ飛んでしまい眠気が全て吹っ飛んでしまったのですがまぁ何とか書けて良かった。
20121117