恋に恋して | ナノ

今までの人生の中で出会った事の無いタイプだ。


散葉はそう直感した。
己の勘が外れた事は無い。
悲しいがこれは事実だ。


散葉は胡乱気に眩しい輝きを放つ金色頭を見る。


太陽みたいに輝く金髪。
長い睫毛に縁取られた切れ長の瞳。
程よく鍛えられた身体に高身長。
それに加え人懐っこそうな笑顔を浮かべたその顔(かんばせ)は眉目秀麗。


成程、これだけ揃えば大抵の女子は一溜りも無い。
だが自分は生憎その"大抵"の部類に入る女子ではない。


眉目秀麗の兄に加え、その天敵である彼やその弟と親しくさせて貰っている身からしたら後ろの席に座る男の端正な顔を見ても「わー確かに顔が整っているなぁ」という位しか感想がないのだ。
その後に続く台詞等、精々「・・・でそれがどうかした?」だろう。



前置きが長くなったが結論から言わせて頂こう。


この金髪、私に恨みでもあるのか!


「折原サン、次の授業って何っスか?」
「・・・・・・数学」
「数学っスかー・・・どもっス!」
「はぁ・・・」

生返事になってしまったが彼は気にしていないようだ。
・・・・・・ていうか取り巻きの視線が痛い。
何で隣の席ではなく私に聞くのか。
駄目だ思考が読めない!イザ兄にも注意されたのに!


否、そもそも朝のHRで先生が二限と四限が変わったって言っていたのを聞いてなかったのかこの蒲公英頭!
一体コイツは朝、何を聞いていたんだ。
新羅さんじゃ無いけど一度解剖してやろうか。


散葉のヤバイ思考回路なんて知る由も無い蒲公英頭もとい、黄瀬は相変わらず笑顔を浮かべている。
その笑顔は普通の感覚なら赤面するレベルなのだろうが、散葉は赤面どころか逆に微妙に顔を歪めている始末だ。

「そういや折原サンっていつもそんな顔してるっスよね。
疲れないんスか?」
「・・・そんな顔?」
「眉間に皺を寄せてて不機嫌そうな顔っス」
「・・・・・・・・・」

君の所為だ!

散葉は思わず叫びたくなった。
何が悲しくて恐らく現在の校内人気者兼美形度No.1に話しかけられなければならないのか。


散葉と黄瀬の関係はクラスメイトだ。
更に言うなら席順が前後しているという、ただそれだけの事なのに何故か黄瀬は自分に話しかける。



自分達の交流はあまり無い。
何故なら彼の周りには常に取り巻きが居るので会話をしようにも出来ない。
だが此処はあまり問題は無い。
問題があるのは散葉が黄瀬に声をかけるのではなく、黄瀬が散葉に声をかけるという、その一点だ。

前者ならただ単に散葉が黄瀬に気があるのでは無いかと思われるが、後者だとその逆で、黄瀬が散葉に気があるのでは無いかという予測が出来るのだ。
当然、取り巻きの女子がそういった考えに至るのは容易に想像できる。
いわば散葉は自分の望む平穏な生活から早くも脱線してきているということだ。


平穏を脅かす存在である黄瀬には悪気は無いと分かっていた為、散葉は不機嫌の理由を飲み込んだ。
そんな子供染みた事をする気は無いが、かといって「そんな事ないよ」と笑顔を向けるのも癪に障る。


よって。

散葉は「そうかな、」と曖昧に誤魔化したのだが散葉の思考は依然、何処ぞの闇医者と同じ事を考える程に荒んでいた。
勿論黄瀬はそんな事は知らない。


知らない方が幸せな事もあると言ったのは誰だったか。

そう説いた古人は正しかった。

  ココロの距離

第二話。
多分この時は入学して一週間位かな?
主人公、とんだとばっちり。

20121115