恋に恋して | ナノ

「助かったっス黒子っち!やっぱり持つべきものは親友っスよね!」
「何言ってるんですか黄瀬君やっぱり疲れて、」
「辛辣すぎっしょ!?」

黒子の目には黄瀬が大型犬にしか見えないし映らない。
故に思わず胡乱気な目で見てしまっても仕方が無い。
・・・黄瀬君すみませんが此処は大目に見て下さい。


空色の瞳がふと、目を逸らすと視界の隅に黒髪が過ぎる。
黒髪と、ブレザーの学生服。
それだけなら黒子もあまり気に止めなかったかもしれない。

だけど。

風に靡く黒髪。
切り取ったように紅い、夕焼け色の双眸。
端正に整った容姿は先程手に取った写真の人物に酷似していた。



「・・・散葉っち?」
「!」
「・・・あれ黄瀬君?」

きょとり。
空色と琥珀色、夕焼け色の双眸がこの時交差した瞬間だった。




「黄瀬君池袋に来てたんだね、ああもしかして仕事だった?」
「え?あ、あー黒子っちに会いに来てたんスよ!
ていうか東京がオレの地元だし」
「?そうなんだ?・・・黒子っち?」
「初めまして」
「え、―――っっ」
「あ、やっぱりそういう反応とっちゃうっスよねー」
「え、あ、」
「落ち着いて散葉っち!
ほら深呼吸!」
「・・・大袈裟じゃないですか黄瀬君」
「えーそうっスか?」
「正直此処まで甲斐甲斐しくする黄瀬君は何と言うかヘンです」
「ヘン!?」
「はい」

黄瀬の動揺した声に黒子の容赦無い台詞に散葉は一瞬唖然とするも、次第にくすくすと笑い出す。
・・・学校でこんな風に会話する彼を自分は知らない。
学校では常に女子に囲まれ、てんやわんやしているところはよく見掛けるけれど。

だからこそ黄瀬が彼にどれだけ心を許し、懐いているのかが分かる。


(やっぱり良いなあ・・・羨ましい。
私もそんな人がいたら、こんな気持ちにならなかったのに)


彼、黒子の学生服は中学時代、高校進学で何処に行こうか迷っていた時に見た記憶がある。
去年出来た新設校、誠凛高校ものだ。
新設校なだけあって校舎が綺麗だったという印象が強かったのを覚えている。

「あはは・・・黄瀬君にとって一番の友達のようだね」
「!ほら黒子っち散葉っちも言ってるじゃないっスか!」
「・・・」
「私が知らなかっただけかもしれないけど、少なくとも海常では黄瀬君のそんな笑顔はあまり見ないからね」
「・・・・・・黄瀬君、もしかして友達がいな」
「いるっスよ!?」

黄瀬を少し弄った後も尚散葉の毒気の無い、満面の笑みを至近距離で見てしまった黒子は気まずそうに目をそらす。
その反応に散葉は僅かに首を傾げているのを人間観察を趣味としている黒子は見逃さなかった。

桃井とは違う女子の仕草。
その反応は可愛らしいの一言に尽きるが、この空気は少し分が悪い。
黒子は小さく息をつくと、散葉に再び向き直った。

「ちょっと黙っていて下さい黄瀬君。
・・・初めましてボクは黒子テツヤと言います。
黄瀬君の元チームメイトです」
「!・・・初めまして、黄瀬君のクラスメイトの折原散葉です。
黒子君のその制服、誠凛高校だと思うんだけど間違いないかな?」
「!凄いですね合ってます。
折原さん知っていたんですか?」
「高校の進学先の候補として知ってただけだよ」

情報屋として知っていたわけじゃない。
断じて違う。

散葉は誰かに言い訳するようにそう心の中で呟く。

「・・・元チームメイト、という事は黒子君もバスケ部?」
「はい」
「黒子っちのバスケはすっごいんスよ!散葉っちも絶対ビックリする事間違い無しっス!」
「そうなんだ?」
「黄瀬君ハードルを上げないで下さい」

琥珀色の瞳が爛々と輝くのを見て散葉は黒子に相当懐いている事を実感する。
対して黒子は慣れたようにあしらっているが。
・・・二人の温度差がよく分かる。
ローテンションとハイテンション。
ちなみに散葉もどちらかと言えば前者寄りなので双子の妹の片割れのテンションに着いていけない事が多い。
黒子とは気が合いそうだと思ったのは内緒にしておこう。

「そういえば何で散葉っちが東京にいるんスか?」
「私も此処が地元なんだよ。だから今日は実家に帰るんだ」
「え!?」
「・・・言ってなかったっけ?」
「言ってないっスよ!!」
「黄瀬君落ち着いて下さい」


二人が思いもよらない事実を知るがこの後、更なる事実が浮き彫りになるのだがそれを感じ取った人間は残念ながらこの場にはいなかった。

  世界が反転する一歩前

続、三人の会話編。
次回で何とか書きたかったシーンが書けるかな。

20140525