恋に恋して | ナノ

!キセキとの初邂逅シリーズD黒子ver
!両想い


「・・・練習試合?」
「そうっス!
散葉が来てくれたらオレいつも以上に頑張れるんス!
だから来週の土曜日に試合見に来て!応援・・・否あわよくばマネージャーをしてほしいっていうか散葉特製スポドリを持ってきてくれたりとか笑顔付きでタオル手渡してくれたりとかつかもうオレ専属マネージャーになってほし(ry」
「本音がダダ漏れだよ」

散葉は冷めた目で恋人(仮)を見る。
・・・何で私この人と付き合おうと思ったんだろう。

ぎゅうぎゅうと隙間なんて無いのではないかと思う程抱き着いてくる黄瀬の姿に散葉はバレないようにこっそりと溜息を吐く。
そして一拍の後に了承の言葉を口にしたのだった。



  ♂♀



(相手校は去年新設の誠凛・・・確か涼太君が尊敬している黒子君とやらがいるんだっけ?)

散葉は首を傾げつつ自室の本棚にある一角を見詰めた。
其処には黒いファイルが鎮座しており、中身は各校の情報がびっしりと書かれている。
・・・最近は黄瀬の影響もあってバスケ部の情報も随時追加されているが割愛。


「涼太君情報だと確か黒子君の好物はバニラシェイクだったっけ・・・。・・・・・・・・・・・・」

黄瀬の性格は一度認めた人間にはとことん懐く。
情報によれば黒子テツヤという人物は黄瀬の元教育係だったらしい。
色々な意味で大変だっただろう。

散葉は数瞬でそう思考した後、パソコンを立ち上げるとキーボードに複数の単語を入力したのだった。



  ♂♀



そして迎えた練習試合。
黄瀬を含む海常レギュラーは更衣室にて着替えている為、この場にいない。
因みに誠凛に着いてから更衣室に移動するまで、長いやり取りがあった為か一部を除き謎の疲労感を感じていた。


『涼太君、私なら大丈夫だから早く行ってきなよ』
『散葉を一人になんかしたら襲われるに決まってるじゃないっスか!』
『そんな訳ないでしょうが』
『どうでも良いから早く来い黄瀬ェ!』
『どうでも良いって何スか笠松センパイ!
男は皆狼なんスよ!?』
『お前も男だろうが!!しばくぞ!』
『もうしばいてる!
黒子っちだって大人しそうな顔してるけど実は隠れ狼だったらどうするんスか!』
『とんだ被害妄想です』


その後本日最上級であろう笠松からのヤキを入れられ、黄瀬はズルズルと更衣室に引き摺られた訳であるが。


散葉は何故か誠凛の監督という女子生徒と対峙していた。

・・・何故?

「貴女が黄瀬君の彼女さん?」
「えっと・・・う、はい・・・多分」
「多分って・・・」

「黒髪美少女・・・!
桃井さんとはまた違うな・・・!」
「美少女・・・は!微笑が似合う美少女・・・!キタコレ!」
「黙れ伊月」

「?」
「あ、あっちは気にしなくて良いから」
「・・・はぁ・・・?」

謎の圧力が篭った笑顔を浮かべた女子生徒、もとい相田リコが怖い。
散葉は逆らわないようにしようと密かに決心した。
その時。その瞬間。


「・・・カントク、この方が折原散葉さんですか?」
「きゃああ!」「わっ、」


びくり。
散葉とリコが声がした方へと振り向くと其処には空色の髪の少年が静かに佇んでいる。

・・・話には聞いていたが実際に見ても確かに影が薄い。
恐らく彼を見付けられるとしたら気配に鋭い人間だろう。
或いは特殊な環境下に置かれた人間か。

「え、と・・・折原は私だけど」
「初めまして、僕は黒子テツヤです。
折原さんの事は黄瀬君から聞いています。・・・耳にタコが出来る程」
「・・・そうですか」

中学卒業しても黄瀬は彼を巻き込んでいるらしい。
黒子君は無表情だが心なしか疲労の色が見え隠れしているのは気の所為ではあるまい。

「黒子君、折原さんの事を知ってるの?」
「はい。
黄瀬君がずっと折原さんの事を話していましたので間接的に、ですが」
「あ、私も黒子君の事を知っているよ。
理由は黒子君と同じ。
私の所為で色々と迷惑をかけていたみたいで、本当にごめんなさい」
「いえ、折原さんの所為ではありません。
悪いのは勝手に個人情報を流す駄け・・・ごほん、黄瀬君ですから」
((今駄犬って言いかけた))

散葉とリコは内心、顔を引き攣らせた。
黒子ではなく真っ黒子様になっている。
背中から不穏なオーラが見えているような気がするが突っ込んだら負けだ。

二人はそっと彼から視線をズラした。
そうしなければならない何かが今の黒子にあった。

だが散葉は幸か不幸か"その状態"に耐性があったので話題をそらそうと荷物の中からある物を取り出した。


「・・・ええと、改めて初めまして。
今回海常のお手伝いで来ました、折原散葉です。
黒子君だけ、という事で申し訳ないんですが、前々から迷惑をかけてしまったせめてものお詫びでこれを持ってきたんです。
お口に合うか、ちょっと不安ですけど・・・」
「え?」
「これは・・・!バニラシェイクですか?」

自室のパソコンで調べていたものは何を隠そう、バニラシェイクの作り方だった。
作り方を調べてみたら意外と材料は少なくちょっと意外だった。
・・・ただ調子に乗ったら量が凄い事になったので、兄や妹達に渡そうかと考えているのだが。

「はい。黒子君の好物と聞いたので・・・。
ただマジバと同じ味とまではいかないかも、」
「いえ、嬉しいです本当に。
有難う御座います、・・・『マジバと同じ味』?」
「あ、それ私の手作りなんです」
「!?」

ビタリ、と凍り付く黒子の視線は散葉に釘付けである。
リコを含む三人の様子を遠巻きに見ていた火神達が訝しげな表情を見せた、その刹那。


「散葉ー!黒子っちー!」

「・・・あ、涼太君」
「散葉お待たせっス!・・・あれ黒子っち?」
「・・・折原さんが彼女だなんて・・・黄瀬君、羨ましいです」
「!?」
「何の話っスか!?」

紫原と続き黒子の胃袋を掴んだ散葉は後にキセキキラーと呼ばれる事になる・・・かもしれない。

+おまけ+

「ちょ黒子っち!?」
「折原さんのバニラシェイク、本当に美味しいです。
いくらでも飲めそうです」
「黒子っちーー!?」
「あ、じゃあ家にまだあるので宜しければ差し上げましょうか?」
「良いんですか勿論です此方こそ恐縮です折原さんは神ですか」
「黒子君がいつになく饒舌に・・・」
「あ、黒子君同い年だし敬語ナシでも私は構わな、」
「いえ僕のこれはもう癖なので。折原さんこそ普段通りで構いませんよ」
「あ、そうなんだ・・・じゃあそうさせて貰うね」
「散葉と黒子っちが何であんなに仲良くなってんスか!?
ちょ火神っち其処のところ詳しく教えて!」
「オレを巻き込むな!」
「つか散葉、紫原っちに続いて黒子っちもっスか!
散葉の作った物は全部オレのものなのに・・・!」
「無視かよオイ」


今回は黒との邂逅です。黒というよりは誠凛というべきか。
というか本編で出てきたのに辻褄が合わなくない?というツッコミはNG。
本来なら赤にしようと思いましたが先に黒のネタが浮かんだので。
赤のネタが思い付かない。ネタを下さい、切実に。



+更におまけ+


「折原さんの旦那さんになる人は幸せですね、こんなに美味しい物を毎日作ってくれるんですから」
「大袈裟だよ黒子君」
「黄瀬君と別れたら報告して下さい、その時は僕が立候補します」
「え」
「黒子っちーー!!」
「(ぼそり)五月蝿い駄犬」
「!!」

20131017(20140823再録)