恋に恋して | ナノ

!キセキとの初邂逅シリーズB紫原ver


「・・・・・・・・・・・・・・」

散葉は兄の天敵にお詫びの品として幾つかお菓子を持ってきた所までは良かった。
しかし、彼女の前には紫の巨大な壁が立ち塞がっていた。


「・・・あの、」
「・・・?えーと、あんた誰ー?」
(それは此方の台詞だっ!)


散葉は喉まで出かかった台詞を無理矢理飲み込む事で場を騒がせる事はなかった。
何故こうなったか。

それは少し時間を遡る。



  ♂♀



「(あーこのお菓子、名前は微妙だけど超美味しー。
これまた買って帰ろーっと・・・て、)
あららー?」


男子にしては長髪、と言っても良い位の髪を風に靡かせている彼の髪は紫。
とても高校生とは思えない程の身長も含めて、彼は良い意味でも悪い意味でも大変目立っていた。

しかし彼にとっては日常茶飯事の事だったので今更人の目なんて気にしていない。
・・・というより気にしていないのは彼の性格的な面もあるだろうが。


「・・・お菓子無くなっちゃった・・・また何処かで買わないとなー」


紫原はふらり、と近くのコンビニに寄ろうと辺りを見渡した、その次の瞬間。


「・・・あれ、アイツ折原臨也の・・・」
「え?あ、ホントだ。
最近見なくなったと思ったら・・・」


「・・・?」


折原臨也、というその名前に紫原は足を止めた。
何故ならその名前は中学時代、彼の主将(キャプテン)を筆頭に誰もが関わってはいけない、と言わしめた存在であるのだから。


現在の高校は秋田の陽泉高校だが中学は東京の帝光中学。
その時に池袋において絶対に敵に回していけない、関わってはいけないと耳にタコが出来る位言われてきた人物達。

その中に確か折原臨也という名前があった筈だ。


(・・・ていうか、遭遇する事ってあんま無かったな・・・)


池袋に行った時、騒動を遠目で見た事はあれど姿を見た事はなかった。
その為、紫原はふと怖いもの見たさとは少し違うだろうが視線を先程噂していた彼等が向けていた方へと同じように向ける。


「・・・あらー?」


其処には黒髪赤目の美少女が一人、佇んでいる。
折原臨也という名前からして男だと思っていたのだが。


(・・・あれ、「折原」?)


確か。
確か、最近その苗字を聞いた事があったような。


「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・あの、何でしょうか」
「・・・えー?」


少し離れた位置にいた筈だったが、いつの間にか紫原は彼女の前まで移動していたらしい。
身長200cm越えの自分に対し彼女が頑張って見上げているその様子を見て、紫原は何故先程の彼等はあんな風に言っていたのだろうか、よく分からなくなった。


「・・・あんたが折原臨也?」
「・・・・・・は?」


ピシリ、と確かにこの時二人の間に空気の亀裂が走ったのだが彼女―――折原散葉は凍り付いた為その事に気付かなかった。



  ♂♀



「・・・あの、貴方誰ですか?」
「オレが質問しているのに何であんたが質問するワケ?」
「私は折原臨也じゃない」


夕焼け色の瞳に剣呑な光を宿しつつ散葉は紫原を見据えると、紫原は何処か気の抜けるような声音でへぇ、と返した。


「あーやっぱり。
だって折原臨也って男の名前だもんねー」
「分かってるなら聞かないでよ」
「んーでもさっき其処にいた奴らが君を指差してたからさー」
「っ」


ぴく、と僅かに反応した彼女に紫原は気付いたが敢えて指摘せず、代わりに先程の散葉の質問に答える事にした。


「紫原敦」
「・・・え?」
「オレの名前。あんたはー?」
「・・・折原散葉・・・」


半ば茫然と呟くように彼女、折原散葉と名乗った少女に今度は紫原があれ、と本日二度目の台詞を内心で呟く。


折原散葉・・・?


「えーと・・・さっき言った折原臨也は不本意ながら私の兄、」
「・・・あ思い出した。
黄瀬ちんが言ってた娘(こ)か」
「・・・は?黄瀬君?」
「あれ、違った?」
「黄瀬君って黄瀬涼太君?」
「そーそー。
モデルで金髪の黄瀬ちん」
「・・・知ってる、けど。
あの、黄瀬君って私の事どんな話して・・・」
「あー何か美味しそうな匂いがするー」
「スルー!?」


なんてマイペースな!
散葉は話の途中であるにも関わらず違う話に移り変わった為、脱力したかのように肩を落とす。


・・・え、良い匂い?


「それ、シフォンケーキ?」
「・・・よく分かったね。
そんなに匂い強い?」
「さー?でもオレお菓子好きだし分かる人には分かるんじゃないー?
ねぇそれオレにちょーだい」
「・・・」


大の男に突如絡まれ、最終的にお菓子を強請られるという事実に散葉は暫し凍りつく。
そして今か今かと待つ紫原に内心で一つ大きく溜息をつくと、徐に多めに作った分の一つを差し出すのだが、この時まるで餌付けしている気分だと散葉は思った事を紫原が知る由もなく。

今回は紫との邂逅です。
そして黄瀬君が出て来ないという事実。

さてもう少しで終わるのでさくっと進めていきたいです。

20130111