恋に恋して | ナノ

オンナノコの扱いに対して誰よりも自信があったのに、何故だろう。
どうやって話していたのか笑っていたのか、もう遠い記憶のように感じる。
まさか、まさか自分がこんな思いをするなんて思わなかった。

「・・・誰かに相談したいっス」

誰が良いだろうか。

黄瀬はとりあえず同中で考えてみる事にした。
まず緑間と青峰は論外だ。
前者はこの手の話題は鈍感の一言に尽きるし、青峰は的確なアドバイスなんて無理だ。
面倒臭そうに適当なアドバイスをするに決まっている。
次に紫原。
彼も興味がない事にはとことん無関心だから彼も駄目だ。
残るは赤司、黒子、そして桃井。
・・・無難と言えば無難だが、此処は黒子にしよう。赤司は最終手段だ。
次に桃井かな、と黄瀬は脳内でそう結論づけた。

後でメールを送ろうと決めた黄瀬だったが、黒子にとっては甚だ迷惑な話だと思うのは彼は知らない。
そんな彼が本日の予定を組み立てた後、とりあえず彼女の事を自分はまだよく知らないと気付いた黄瀬。
思いたったらすぐ行動。

現在昼休みの学校の廊下を黄瀬は僅かな緊張と少しの不安を抱えながら歩いていた。
黄瀬はいつも通りに昼食を裏庭で食べているだろう烏の濡れ羽色の少女を探しに外へと出る。
自分のファンには見付からないように注意しながら辿り着いた先には予想通りの人物が一人いた。

決して友人がいないわけではないが観察する限り彼女、折原散葉という人間はどうも大多数の人間に囲まれないようにしている節がある。
というより団体行動そのものが好きではないような感じだ。
尊敬する黒子ではないが人間観察しているうちに気付いた事。

「・・・黄瀬君?」
「散葉っち、一緒にお昼食べても良いっスか?」
「・・・返事を聞く前に座るんだったら聞く意味無いと思うんだけど」

散葉の呟きは黄瀬の耳に届いたが敢えて黙殺する。
彼女の口から拒否の言葉を聞いたら絶対に立ち直れない自信があるからだ。


「って散葉っちのお弁当、すっごい美味しそう!
お母さん料理上手なんスね!」
「え?」
「え?
・・・なんかおかしな事言ったっスか?」
「あ、ううんそうじゃなくて。
私一人暮らしだから、全部自炊、」
「え!?」
「っ!?」
「一人暮らしって凄いじゃないスか!
あれでも親とかは、」
「両親は仕事でいつもいないよ、兄妹はいるけど諸々の事情で私だけこっちに引っ越したんだ」
「(・・・諸々の事情?)そうなんスかーオレも似たようなもんだから似た者同士っスね!」
「(例え似た者同士であったとしても問題だらけの兄妹という点は似てないだろうな・・・)・・・ウン、ソウダネ」
「・・・散葉っちってお兄さんが一人、妹さんが二人って前に言ってたっスよね。
やっぱり似てるんスか?」
「似てない」
「え」
「・・・顔はよく分からないけど性格は似てないと断言出来る」
「そ、そっスか」

心なしか目が据わっている散葉を見て、黄瀬はこれ以上彼女の地雷を踏まないように違う話題をする事にした。
散葉を見ると僅かに出来た会話の間に食事を静かに再開している。

身長差によって出来た角度から見ても彼女はやはり美人だ。
香水や化粧を然程していないのがよく分かる。


「えーと・・・あ、オレ昨日モデルの仕事してたんスけど」
「へー」
「その時ふと散葉っちの好きな芸能人って誰かなーって思ったんスよ。
で教えて欲しいなーって」
「・・・・・・は?」

彼女の夕焼け色の双眸が胡乱気に自分を見る。
・・・あれ。

「あ、ごめん・・・。
えーと芸能人、芸能人・・・」
「そんなに悩むんスか?」
「あまりバラエティーとか見ないからなあ・・・あ、」
「誰っスか!?」
「黄瀬君知っているか分からないけど」
「知らなかったら調べるし、教えてほしいっス!」
「(何で此処まで必死なんだろ・・・)・・・羽島幽平さん」
「・・・知ってるも何もオレ、昨日撮影一緒だったっスよ、ていうか滅茶苦茶有名人じゃないっスかあああああっ!!」
「え、そんなに怒る事!?」


予想だにしなかった黄瀬の本気の叫び声に散葉は目を丸くする。
しかし黄瀬はそんな彼女の反応にまで気が回らなかった。

まさか彼女の口からその名前を聞くとは思わなかったからだ。
否確かに自分達の世代において彼のファンと言う人は多いだろう。
だからと言ってまさか彼だとは。

彼、羽島幽平。
モデル兼俳優、ハリウッドにも出演する位の実力派。
・・・彼、かあ・・・。


黄瀬が脳裏に幽平の姿を脳裏に浮かべると同時に無常にも昼休みの終わりを告げる予鈴が鳴り響いた。


え、もう終わりっスか!?まだ話し足りないのに・・・!

・・・あ、散葉っちって言わないでって言うタイミング逃した・・・。

  二人の考えのすれ違い

黄瀬なりの情報収集編。
多分主人公は周囲が知っている範囲で黄瀬に教えそう。
深度Aクラスの情報は話さないとか。もう情報屋だ。

20140104