恋に恋して | ナノ

中学の時、散々馬鹿にしていた恋愛。
桃色のマネージャーもその一人で一途に片想いをする姿を見て、少しだけその見解を改めた。
自分はそう簡単に落ちないと思っていたその恋愛にあっさりと落ちた。

今まで恋愛をしなかった分、今回恋した彼女に全て向けられたと言っても過言では無い筈だ。

「ああああ恋愛ってこんな気持ちだったんスね、散葉っちに会いたいすぐ会いたい今すぐ会いたい・・・!」

頭を抱え、項垂れる姿ははっきり言ってモデル型無しだ。
あまり関わりたくないと思える人種だ。

現在黄瀬はモデルとして撮影現場にいるのだが遠巻きにスタッフが歩いているのに彼は勿論気付いていない。
誰も進んで関わろうとしなかったスタッフを他所にある男が黄瀬の前に現れた。

「・・・黄瀬君、そろそろ出番らしいだってスタッフが言っていたから準備をした方が良いよ」
「・・・・・・は、ねじまさん?」
「はい」

緑の黒髪、黒曜石の双眸。
表情という表情が全く無い無表情。
先程の台詞も抑揚が無く、まるで動く人形のよう。
笑顔を一切作らない段階でモデル、ましてや俳優なんて勤まらないだろうと当初言われていた芸能人―――名を羽島幽平。
音も気配も無く、彼は突如現れた。


「っうわあああ!」
「・・・・・・」
「び、ビックリした・・・!黒子っち並に気配消さないで下さいよ!」
「(黒子っち?)・・・気配を消したつもりは無いんだけど驚かせたみたいだから・・・ゴメン気を付けるよ」
(全然謝られている気がしないんスけど・・・!)

此処までの会話で表情筋が動いたとはとても言えない。
この短い時間で感情がごっそり欠如したんじゃないかと植えつけられた黄瀬。
・・・あれ自分の目の前にいる人って人間っスよね?

「え、ええと此方こそいきなり大声をあげて申し訳無いっス」
「別に慣れてる。
それにちゃんと気付いてくれる人もいるし」
「(グサッ)そっスか・・・」
「・・・あ、ほら黄瀬君そろそろ呼んでるよ」

黒曜石の双眸を撮影されている部屋へと向ける幽平に釣られて黄瀬も視線を向ける。
其処には幽平と黄瀬以外にも後何人かのモデルもいるが、たった今先のモデルが終わったようだ。

「黄瀬くーん、次おねがーい!」
「あ、はいっス!」

たたっと軽快な音を立てながら黄瀬は去っていく姿を見ていた幽平だったが、着信を告げる音で視線を自身のポケットに入っていた携帯へと移した。

「・・・あ、」

着信を告げる相手は先程軽く触れた存在。
自分が静かに近付いても黄瀬のようにあまり驚かない存在。

「・・・もしもし、散葉?」
『あ、幽さん今大丈夫ですか?』
「?うん」
『ええと、遅くなりましたがプレゼント有難う御座いました!
大切に使わせて貰ってます』
「女の子にプレゼントをした事なんてあまり無かったから少し不安だったけど、喜んで貰えて何よりだよ」
『え、幽さんがくれた物なら大切にしますよ!』
「・・・有難う。
そういえば散葉、神奈川の学校に通ったって聞いたけど友達は出来た?
後は分かってると思うけど、情報操作とかそういうのはあまりしない方が良いよ。
それから―――」
『と、友達はぼちぼちって感じですけど、幽さんお母さんみたいになってます!』
「・・・え、せめてお兄さんだと思うけど」

電話の向こうにいる彼女―――散葉は分からなかったが、彼の兄等見る人が見れば確かに幽平は僅かに口角を上げたのだった。

  日常と非日常の境目

お待たせしました、ようやく幽君の登場です。
当初から彼の登場を望む声もありましたが3章にて実現出来ました・・・!
さてまた一波乱が起こるか否か。
この回はつまりは閑話に近いかもしれませんね。

20140103