オリエンテーションの順番は籤の番号順だ。
その為、散葉達よりも先に黄瀬達が先に肝試しに行く事になった。
普通ならば此処で颯爽と、又は暗がりなので暗所が苦手な人は嫌々ながら行くだろう。
しかし、黄瀬のペアである紺野柚はどちらの反応でもなかった。
「散葉さん嫌ですやっぱり私はこんな金髪モデル(仮)と行くのは気が進みません!」
「色々言いたい事はあるんスけど、とりあえず(仮)って何スか!!」
「ざまーみろ黄瀬」
「仮でも本当でもどっちでも良いから潔く諦めて行ってきなよ・・・」
未だ嘗てこんな扱いを女子から受けた事なんて無かった黄瀬は軽くショックを受けた。
中学時代、桃色のマネージャーも自分に興味は無かったし黒子に比べれば雑な接し方を受けた事もあったがそれでも此処までではなかった。
同じ自分に興味無い女子なのにも関わらず、散葉と彼女に抱く感情は全然違う。
ていうか一緒にしたくない。
「散葉さぁぁんっ!!」
「どうでも良いから早く行け十二番ー」
まるで姉妹が生き別れにでもなるかのような台詞である。
現在人気ナンバーワンの黄瀬のペアになったのが女子、という時点で嫉妬の対象になるのは最早定番となっている筈だったのだが今回、そういう事は一切起こらなかった。
理由は当然、彼女にある。
嫉妬しようにも彼女が彼女たる所以なのだが、それでも馬鹿馬鹿しいという思いが上回ったからかもしれない。
何とも言えない彼女に散葉は何処か遠い目でそれを見遣り、一方黄瀬は問答無用とでも言うように彼女の腕を引き摺って足を進めるという傍から見なくても充分ヘンな光景に全員閉口したのだった。
♂♀
「・・・そんなに折原サンが良いんスか?」
スタートしてから数分。
黄瀬は不機嫌という感情を醸し出しつつ、彼女を見る。
その視線を受けても尚、彼女―――紺野柚は怯まなかった。
「そうです。
正直貴方よりも散葉さんとペアになりたかった」
「いやいや正直も何も、その気持ち表全開で出てたっスよ!!」
シリアスになるかと思われた空気は一瞬にして霧散した。
ホント何スかこの娘(こ)!!
つーかこの娘、前折原サン落ち込ませてた原因っスよね!?
「・・・折原サンって、」
「随分散葉さんに拘るんですね。
貴方には関係無いでしょう?」
まるで身を切るような言葉の刃に黄瀬は一瞬言葉を無くす。
彼女にとって散葉は一体どういう存在なのか聞こうとしたのだが、途中で切られてしまった。
しかし今はそんな事、彼女の問いによってどうでも良くなった。
・・・関係無い、だって・・・?
黄瀬はピタリ、と足を止める。
何故かは分からないが、非常に腹が立った。
自分にとって散葉の事等、どうでも良い存在だと言われているような。
所詮彼女と自分の関係なんて薄っぺらいものであると言われたかのような感覚。
巫山戯るな。
散葉の事を考えるだけで無性に何かに駆られる衝動。
散葉の笑顔を見ただけで彼女の顔を見られなくなる、この感覚は何なのか前からずっと考えているのに。
それなのに、散葉の事をどうでも良いと思われている事実に、どうしようもなく腹が立った。
無性に言い返したかった。
―――何を?
「・・・貴方、散葉さんの事を何とも思っていないのなら必要以上に接しないで下さい。
散葉さんが被害を受けるのは見ていられません」
今は大丈夫のようですけど、と紡ぐ彼女に黄瀬はぐっと拳を握り締めた。
何とも思っていない?
否、折原サンは自分をモデルとして見ない数少ないオンナノコ。
だから―――。
「・・・それなら私も同じですよ。
私も貴方をモデルとして見ていませんから」
黄瀬が足を止めたので、彼女も数歩先で足を止める。
だけど依然、瞳には剣呑な光を宿したままで。
「それでも、オレは折原サンとアンタを同じ接し方は出来ない」
「でしょうね。
貴方が抱く感情の名前が違うから当然と言えば当然ですけど」
「・・・そりゃそーっスよ」
「・・・・・・・・・その様子だとまだ気付いていないんですね」
「は?」
「いえ何も」
その言葉を最後に、再び足を動かす二人。
二人は以降、言葉を交わす事無くゴールするのだった。
♂♀
「あ、おい黄瀬!!」
自分達がゴールしてから十数分後。
黄瀬は名前を呼んだ友人に顔を向けるとどうも様子が可笑しい。
あれ?確か彼は折原サンとペアだった筈では・・・。
「・・・どうかしたっスか?」
「折原さん見てないか?」
「は?」
折原サンを?・・・何で?
「見てないっスけど・・・」
「マジで!?
じゃーまだ探しているのかな・・・」
「・・・それどういう事っスか?」
そう呟いた彼に黄瀬の声は自然と低くなる。
彼から事情を聞いた黄瀬は考えるよりも先に飛び出したのだった。
錯綜するココロ
2章もそろそろ終盤。
次は主人公サイド、の予定ですが果たしてそう言えるのか・・・?(汗
20130124