恋に恋して | ナノ

―――ねぇ、ちょっと聞きたいんだけどこの中に十六番の籤を持った人っているかな?




そう問われた黄瀬達は一瞬、台詞の内容を理解出来ずにピタリ、と身体が凍り付く。
その為散葉の質問に誰一人返す事は出来なかった。
それもその筈、何せつい先程まで話題の中心ともなっていた人物が突然現れたら誰もが驚くのも無理はない。


しかし彼らの中で一番早く覚醒したのは黄瀬だった。


「お、折原サン・・・?」
「そうだけど・・・ゴメン、驚かせた?」
「え?あ、否、」
「・・・散葉さんが聞いているんですから早く答えて下さい!
十六番の籤を持ってる方はいるんですか、いないんですか!」
『(ビクリ)!』


散葉の隣に控えていた少女の比較的大きな声に散葉達より大きな身体を大きく身を震わせた。
彼らの視界に散葉しか映っておらず、まさかもう一人いるとは思わなかったらしい。


(折原さん以外にもいたなんて・・・!)
(あれこの娘、隣りのクラスの紺野じゃん)
(折原と同じ位美少女・・・何これ目の保養になりすぎ!)
(・・・この前折原サンが落ち込む原因を作った女の子が何で折原サンの隣りに・・・?)


怒った様子で自分達を見る彼女にズレた思考回路で彼女を見る。
時間を追う毎に徐々に眦(まなじり)を釣り上げていく彼女にはっと黄瀬は口を開いた。


「十六番っスか!?
えーとオレは違うっスね!」
「・・・あ、えーと俺だわ十六番」
「!」
「あ、じゃあ私のペアの相手は見付かったって事だね」
「え、折原も十六番?」
「そうだよ」


ほら、と見せられた籤にはしっかりと二つの数字が書いてある。
黄瀬はあっけらかんとした散葉の様子に何故か左胸がざわついた。


あれ・・・?

え、可笑しくないっスか?何で、


「ズルいぞ、折原さんとペアなんて!」
「ズルいって・・・籤なんだから仕方ないだろーが!」
「え?え?」
「あ折原は気にしなくて良いから」
「・・・そう、なの?」


こんなに、苦しいんだろ?
別に、折原サンが誰と組もうがオレには関係無い、筈なのに・・・


なのに、どうして、


「あ、黄瀬君は何番の籤を引いたの?」


こんなに胸が、心が痛いんだろ・・・


「・・・十二番、っスよ」


今、オレはちゃんと笑えているだろうか。
モデルの仕事の時みたいに、上手く、違和感無く、自然に、


「・・・黄瀬く、」
「十二番って、じゃあ貴方が私のペアですか・・・!?」


散葉が黄瀬に向かって何かを言おうとした瞬間、隣りにいた彼女―――紺野柚が絶望にも似た表情で声を上げる。
それにより散葉の台詞をかき消した。


「・・・え、」
「嫌です私は散葉さんと同じペアになりたかったのに!!
其処の貴方、お願いですから代わって下さい!!」
「えぇ!?」


今をときめくモデル・黄瀬涼太よりも隣りにいる少女の方が良いと言い切る彼女に、散葉も黄瀬も男子生徒は勿論、周囲にいる生徒も皆珍獣でも見るような目で見られる事になったのだが、彼女は一切気にせず只管嘆いたのだった。



  ♂♀



隣りのクラスではあるものの、美少女として男子生徒の間では人気だった彼女は今日をもって残念な美少女と認定された。
しかし正確には折原散葉の兄である折原臨也に関わった時のみだ。
彼女の一番は折原臨也であって、散葉に懐くのは偏に彼の妹だから、という意味合いの方がより正しい。
しかしそんな事等知る由も無い彼らが彼女をまるで宇宙人でも見るような目になってしまうのは仕方のない事と言えた。


「・・・え、あの、紺野さん黄瀬に興味無いの・・・?」
「私は同い年の男子に興味ありません!
あの人に比べたら・・・いえ比べるなんてそんな失礼にも程が・・・!」
『・・・・・・・・・・・・』


唯一"あの人"を知る散葉にとって、彼女の言葉は冷汗しか出てこない。
いつ兄の名前を出されるか恐怖でしか無いのだから。



は、早くオリエンテーションを開始して下さい先生ー!!



内心でそう絶叫する散葉の願いが届いたのか、遠くの方で教師が集合の声を出されたのはこのすぐ後の事だった。

  オリエンテーション開幕までの閑話

さて次は肝試しです。でも描写を省くかもしれないです(←何
ペア決めですが主人公と黄瀬が離れたのは一応理由があります。
勿論黄瀬と信者の娘がペアになったのも一応書きたい描写があったので。
ちゃんと書けるかな・・・(遠い目

20130117