散葉は困惑していた。
目の前には全く面識の無い男子複数。
そして隣りには自分のクラスメイト、黄瀬が何故か乾いた笑いを浮かべている。
・・・・・・どうやら今年は厄年らしい。
平穏を求めてるのにそれから遠のくばかりで代わりに厄介事が弾丸の様に舞い込んでくる。
何故こうなったか。
散葉は現実逃避をしかけた頭でふと思い返してみた。
♂♀
事の発端は海常高校バスケ部だった。
実力テスト一週間前を切った為、急遽全員の成績を見せるようキャプテンである笠松が言ったのだ。
海常は体育系の部活に力を入れているが決して学業も疎かにしておらず、学年で成績が悪い生徒には補習という決まりがある。
部活の練習時間をよもや、補習で潰すわけにはいかない。
「黄瀬・・・お前授業ちゃんと聞いてんのか?」
「あー・・・半分は・・・」
「・・・・・・ノートちゃんととってんのか?」
「眠い状態で書いてるんで・・・自分でも何書いているんだか分からなくて・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
笠松の質問に答える度に、彼の眉間の皺が増えていくのが分かる。
更に言えば米神の血管も浮いてきており、徐々に負のオーラが漂い始めている。
笠松以外の先輩もいるが笠松のオーラに気圧されているのか、全員沈黙していて。
・・・あ、これ真剣にヤバイ、と黄瀬が思った瞬間、笠松が口を開いた。
「・・・黄瀬ェ」
「(ビクリ)ハイ!」
「お前今日から誰かに勉強を教えて貰え!!」
「えぇ!?」
「本来なら俺達が教えてやるところだが生憎テスト範囲が膨大でそれ所じゃないからな・・・クラスに一人位いるだろ勉強を教えてくれそうな奴!」
「そうは言っても・・・」
自分には常にミーハーな女子がいる為、クラスの男子は大抵羨望と妬みの混じった目で見てくる。
勿論普通に接してくれる人間もいるのだが、友人を作るのはひどく難しかった。
友人も自分と同じくそんなに成績は良くなかった筈だ。
(成績が良くって尚且、オレと普通に接してくれる人なんて―――)
黄瀬が思案する中、沈黙を貫いていた森山が此処で口を開いた。
「オレが教えようか?」
「・・・森山先輩?」
「但し、三十分につき女の子一人紹介し―――」
「シバくぞ!」
ズビシ、とどつく笠松に黄瀬は冷静に心の中で突っ込んだ。
(もうどついてる!!)
「森山は置いといて―――、おい黄瀬どうなんだ?」
「え、あー・・・そうっスね・・・」
取り巻きの女子は論外だ。
勉強以前に面倒臭い事が待ち受けているのは目に見えている。
だとすると。
「・・・・・・あ」
黄瀬はこの時、ふと一人の少女が脳裏に過ぎった。
そうだ。
彼女なら適任だろう。
「・・・思い当たる人がいたんで、ちょっと頼んでみるっス」
最も彼女が引き受けてくれるかどうかは分からないけど。
黄瀬はその台詞を飲み込んで、早速彼女―――散葉の元に行く事にしたのだが。
何故か先輩達も黄瀬の後に続いて着いてきた。
教室で散葉を呼んだ瞬間の、顔の筋肉を盛大に引き攣らせた彼女の顔が今も忘れられない―――。
そうして現在に至るのだが。
「・・・黄瀬君、事情は分かったけど何で私なの?」
「折原サンが一番適任だと思ったからっスよ!」
「私より成績優秀で君に興味の無い人なんて探せばいるって」
「それ裏を返せば探さないといないって事だろ」
「モデルって辛いっスわ・・・」
「死ね黄瀬ェ!」
バキャッ
「痛ッ!!」
「黄瀬の前の席の娘がこんなに可愛い女の子だとは・・・!
お嬢さん、どうかお名前を・・・!」
「・・・・・・・・・・・・スミマセン、貴方誰ですか」
温度差が激しすぎる上に、会話の内容も色々可笑しい。
キャラが濃過ぎるのは自分の兄妹を筆頭に慣れているが、一体どうしろと。
散葉は目の前で膝を突く男に冷めた物言いで返す。
・・・誰かこの場を収めてくれないかな。
現状把握も出来ていない散葉が遠い目をしても、責める者は誰もいなかった。
少しずつ変わる関係
海常先輩組、二人しか出せなかった・・・。
主人公、黄瀬に勉強教えなければいけない事に。
はてさてどうなる事やら。
20121204