恋に恋して | ナノ

頭が・・・痛い。


散葉は朝から早くも頭痛に悩まされていた。
その原因はと言うと。


『チル姉がいない生活なんて耐えられないよー!!
ねぇチル姉、いつ帰ってくるのー!?』
「・・・・・・ま、舞流。
声のトーンをもう少し落として・・・」
『チル姉が帰るって言ってくれなきゃ嫌ー!』


早朝からこの妹のテンションは辛い。
せめて九瑠璃・・・九瑠璃に代わってくれ。
・・・否もうこれは電話を切っても良いかな・・・?

散葉は自分を慕ってくれる妹を無碍に出来ず、ずるずると会話をしていたのだが此処である事に気付いた。

「(・・・・・・ていうか今何時・・・・・・、)え゛」
『ねえってばチル姉ー!?』
「もうこんな時間!?
ちょ、舞流!其処に九瑠璃も居るよね!?
もう学校に行く時間じゃないの!?」


時計が指し示す時間はとっくに散葉も妹も出る時刻を過ぎている。
なのにこの妹はそれを知っているのか知らないのか・・・多分前者だろう。
この妹は策略家だ。
・・・折原家(但し両親を除く)は総じて頭脳派なので、兄妹相手だと常に頭を動かさないと大変な事になるのは経験済みである。
因みに今もその一つだ。

『わっチル姉が気付いた!』
「やっぱり知ってたのか舞流!
九瑠璃!君も其処に居るんだろ、舞流を連れて早く学校に行きなさい!」
『姉・・・了』(チル姉・・・分かった)

もう一人の妹の返事を聞くと同時に散葉は容赦無く通話を切る。
次いで自身の中で最速のスピードで用意すると、家を飛び出したのだった。

(ああああ、もうあの双子からの朝の電話は出ないようにしよう!
そして次実家に帰ったらあの子等の嫌いなものを食卓に出してやる!)

散葉の不穏な考えを察知したのか同時刻、舞流と九瑠璃は背筋に悪寒を感じたのだが、散葉が知る由も無く。



  ♂♀



「・・・・・・・・・・・・」


結局散葉の頑張りも虚しく、結果は遅刻。
私は悪くないと言い張りたいが原因は身内なので言い訳なんて出来ない。
畜生、可愛い妹だけど妙な所で頭が良いから手に負えない・・・!



散葉は頭痛の種から解放された、と思い席に着いた瞬間後ろから聞こえた声に新たな頭痛の種に悩まされる事になる。


「折原サンが遅刻なんて珍しいっスねー」
「・・・・・・・・・・・・・・・」


そうだ。
彼がいたんだった。


散葉は自分の求める平穏は何処にあるのだろうと真剣に考えた。
しかし後ろの席に座る人物―――黄瀬の怒涛の追撃は終わらなかった。


「無視!?酷くないっスか!?」
「否・・・別に無視とかじゃなく・・・」


ちょっと黙ってくれ黄瀬君。
朝からテンションの高い人間の相手をするのにどれだけの体力を使うと思ってるんだ。


色々言いたい事はそれこそ山の様にあるのだが、散葉は黄瀬の取り巻きであろう女子の視線に閉口したのだった。

  嵐の前の静けさ

今回は舞流との会話がメイン。
次からはまた黄瀬君と絡みます・・・多分。

20121201