恋に恋して | ナノ

「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

静寂を切り裂くメロディーに黄瀬が苦笑を浮かべながら「出てきて良いっスよ」と言われたので散葉は一拍の後に「ごめん」と断りを入れる。
次いで軽く距離をとって携帯の通話ボタンを押すと同時に散葉の耳に届いたのは、ある男の声だった。


『・・・もしもし』
「、幽さん?」
『そう。・・・久しぶりだけど元気だった?』

男性特有の低い声に散葉は軽く焦った。

しまった、通話相手を見ずにボタンを押してしまった・・・!
多忙の彼がまさか電話をしてくるとは思わなかったから余計に驚いた。


平和島幽。
姓から分かる通り『池袋最強』平和島静雄の実弟。
職業はモデル兼俳優の今最も有名な芸能人だ。

「げ、元気ですよ!
それより幽さんの方は大丈夫なんですか?
ハードスケジュールって静雄さんから聞いたんですけど・・・」
『兄貴から?』
「そうですよ?
・・・幽さん、静雄さんと連絡とってます?」
『散葉と同じ位とってないかな』
「私(兄の天敵の妹)よりも静雄さん(兄)でしょう!
優先順位が可笑しいですよ!!」


思わず絶叫する散葉に対し、幽は全く変わらない抑揚で冷静に返す。
散葉の記憶上、彼が怒ったり泣いたりと感情を表に出す事は演技以外で全く見た事が無かったので其処はあまり気にしていない。

『・・・そうかな。
でも今回は散葉に言いたい事があったから』
「・・・・・・なんですか?」

内心で臨也による多大な迷惑を被っている件で、とうとう幽の堪忍袋の尾が切れたのではないかと戦慄した散葉だが次の幽の言葉でそれは霧散する。

『いつもお菓子を貰っているから、近いうちにお礼をさせて貰おうと思って。
受け取ってくれる?』
「・・・・・・・・・え?」

お菓子のお礼?
いやいやあれはお詫びの品であってそれのお返しって、え、ちょっと待って。

「あの幽さ、」
『・・・あ、もう休憩時間が終わりだから切るね。
それじゃあ、』
「え゛」

電話の奥から幽を呼ぶ男性の声が聞こえたのと同時に幽が通話を終了する旨を一方的に言われ、凍り付く散葉。
次の瞬間ブツリ、と虚しい音が響く携帯に散葉は茫然した。

お詫びのお礼って一体、と内心打ちひしがれている散葉の耳に予鈴が入るのはこの2分後の事だった。

  彼との会話

拍手コメントでもありました、"彼"の登場です(笑
まぁ声だけですが。
個人的に最後に幽を呼びに来たのが『花片』(『花雪』)のお相手だったら良いな、という妄想が入っています(←何

黄瀬君ですが勿論この後、主人公と一緒に教室に戻っている設定。
が、一緒に戻ると面倒なので時間差で教室に入るという細かい作戦も立てています。

20121121