巡ッテ廻ッテ乙女ト青 | ナノ
初めて出会った彼女は、まるで雪のようだった。



文字通り雪のような髪の色に、肌の色。
それに加えて白一色の襦袢に痛々しく巻かれている包帯。
唯一色があったのは何も映すことのない、澄んだ青灰色の双眸だけだった。





真斗が彼女に駆け寄ったとき、辺り一面雪が積もっていてまだ降っていた。
それなのにも関わらず、彼女は衣一枚で仰向けに倒れていた。
それに加え目を閉じていて、見ただけではとても呼吸をしているのかよく分からず、もしかして死んでいるのではないかと思った。
しかし、次の瞬間生きていると分かって安心したのを覚えている。

多分、初めて逢ったときから俺は、きっと―――。



  ♪



青灰色の双眸を僅かに細め、真斗を真正面から射抜くように見つめる白い少女―――灰音に真斗は父親とはまた違った居心地の悪さを感じ、少し怯んだ。

「・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

始終無言の彼女に真斗は困惑する。
何しろ彼が育ってきた環境は同年代の異性がいなかった。
更に言えば同性も含めて、こんな態度をとられたことはなかったので、真斗が困惑するのは仕方が無かったといえる。

しかも彼女―――灰音は姿こそ真斗とは同年代であるものの、精神の方は遥かに灰音の方が年上である。
いかに六歳の真斗が灰音以外の同年代と比べて利発であっても、それでも比べ物にならない。
なのでこの場合灰音が真斗に合わせなければならないが、如何せん彼女にはその気が無い。
というより、灰音は人間どころかこの世界そのものを拒絶していた。
今更子供一人に気味が悪いと言われようと灰音にとってそんなことは日常茶飯事。まさに予定調和。それこそ今更だった。


つまり。彼女の心境としてはこうだった。
"もう何も期待などしていないのだ"、と。




「・・・・・・その」
「・・・・・・・・・・・・」

沈黙と視線に耐え切れなくなった真斗は自らその沈黙を破った。
彼の視線の先には襦袢の先から覗く白い包帯。それに足のギブス。
白く小さな身体には不似合いな大怪我に真斗の眉間にだんだんと皺がよる。

「そ、そんなうすぎでこんなところにいてはかぜをひく!それにきずにもわるい!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

見たところ、自分と同い年位か。
私の肉体年齢と同じ位の少年は初対面にも関わらず、正論を言ってきた。
この頃の子供ってもっと支離滅裂な会話をするものだと思っていたんだけど。

そんな事を思っていると真斗の方は不安がより一層増したことに灰音は気付かない。

「・・・もしかして、こえがでないのか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」

それは(灰音にとって)あまりにも突飛的な発言だった。
それまで無言を貫いていた灰音は思わず声をあげるが真斗にとってはそう思っても仕方の無いものだということに彼女は気付かない。
胡乱気に灰音は顔を少し歪め、それまで仰向けだった上半身を徐ろに起こし、軽く頭を振ることで髪に付いた雪をはらう。
そして真っ直ぐに灰音は真斗の方へと視線を向けた。

「・・・貴方何言ってるの?」
「ふつうはそうおもうだろう!おれがきいてるのになにもいわないから!」
「その前に見知らぬ人間に話しかけてはいけないって教わってないの」
「なっ!」

話したと思ったらまさかの辛辣な言葉に真斗は狼狽する。

「お、おれは・・・!!」
「小さな親切、大きなお世話」

ばっさりと切り捨てる灰音の声音は氷のように冷たい。
否、灰音の容姿は雪を連想させるからある意味合っているのだが。

一方子供心にグサグサと突き刺さる言葉の羅列に思わず真斗は涙目になる。
意味は分からないがとても酷いことを言われたのは何となく分かる。
未だ嘗てこんな扱いを受けたことはあっただろうか。


「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・はぁ・・・貴方ってただのお人好しなのかそれともただのバカなのか・・・」

青灰色の双眸を細めて真斗を見つめる彼女に真斗は思わず涙が引っ込んだ。
彼女がどういう意味でその言葉を言ったのか、わからなかったがそれでも自分に向けられた嫌悪ではない、別の感情―――人は其れを『呆れ』というのだが彼はまだ知らない―――が篭っていることに気付く。


「まぁ忠告だけは聞いとくわ」

それを実行するかは別として。

  二人の世界は重なった。

第3話。仔真斗と出会いましたが、お互い名乗ってもいないという・・・。
しかし主人公、子供相手になんて大人気ない。

20120314