「―――お前を引き取りたいという男が来た。
お前はどうしたい?」
このまま此処にいたら施設に行くのは間違いない。
生きるのは辛い。
約束も守れず、守りたかった人もいない。
簡単に会える距離にいるわけでもない、連絡をとるなんて論外。
どうして記憶なんて持って生まれたのか、なんて。
そんなの目の前の男を問い質しても、欲しい回答が返ってくる筈が無い。
「・・・貴方、本当に厳しいわね。
いつだって逃げ場所を潰して、その上で聞いてくるのだから」
「前にも言っただろうが。
お前に死なれるのも後味が悪いんだよ。
死ぬなら俺達の目が届かなくなった所で勝手にするんだな」
「・・・」
そう言われると素直に死にたくなくなる。
こういう所が銀時達に素直じゃないと言われる所以だったのだろうか。
「・・・俺達なんぞの言葉なんて聞きたくもないだろうがよ、お前はお前だ。
お前の人生はお前だけのものだ。
だからお前の好きな通りに生きろ。
お前の魂はまだ、腐ってねェ筈だ」
生きていてほしい。
そう願って、あの世界を去った先生。
胸が張り裂けそうな痛みと色を失った瞬間を今でも覚えている。
先生と引き換えに生き長らえた命。
その命を使い、またこの世に生まれた事実。
半端な事をするな。
先生はいつもそう怒って、悟らせてきた。
銀時も小太郎も晋助も彼らなりに先生の教えを守って、生きて生きて生き抜いた。
―――じゃあ、私は。
彼らに胸を張って、彼らに恥じない生き方を、生き様を貫かなければ、きっと彼らの前に出る事なんて出来ない。出来やしない。
後には戻れない。過去になんてどれだけ願っても帰れない。
ならば、前へと進むしかないじゃないか。
「・・・どうせ、その引き取りたいって言った人ってあの黒い長髪の男の人なんでしょ。
・・・分かったわ。その話、引き受ける」
♪
「つーわけだ、これであの女の自殺衝動も少しは収まると良いんだがな」
「そうか・・・良くやったトシ!
元敵同士だったとはいえ彼女に死なれるのは万事屋に顔向けが出来んしな!」
「・・・・・・いや其処等辺はどうでも良い」
自殺志願。自殺衝動。
どんな言葉で取り繕うにも最終的に行き着くのはその言葉だった。
儚さを体現化させたような少女はその容姿通り自分さえも掻き消そうとする事が度々あった。
「・・・まああの男なら"荒神"の手綱を握ってくれるだろうよ」
見た目に反して強かで図太そうな性格だった。
あの強情な女も上手く影響を受けて変わってくれれば万々歳だ。
―――そうして彼らの再会劇は六年後になる。
♪
「―――おや」
「・・・」
「・・・改めて、初めましてと言いましょうか。私の名は草薙輝石です。
貴女のお名前は何ですか?」
「・・・灰音・・・」
小さく告げられる名前に輝石は微笑する。
「―――では今日から貴女の名前は草薙灰音ですね」
今日からこの人は自分の養父になる。
何も知らない筈なのに的を得た言葉を言うから怖くなる時もあるけれど。
それでも私は生きる。
まだ心は迷っているし、安定剤が無いからうまく地に足が付けるか分からないけれど、それでも。
「・・・これからよろしく」
本当にくだらない世界かどうか見定めてから決めるのも良いのではと思ったから。
そうして白い少女と青い少年は邂逅する。
それは新たな日常の幕開けでもあったのだが、その時の少女がそれを知る由もなく。
過去編は一旦この回で終了。
ぶっちゃけ養子縁組ってそんな簡単に出来る筈はないですが其処は創作という事で見逃してください←
20150802