巡ッテ廻ッテ乙女ト青 | ナノ
突如鳴り響いた携帯の画面には見慣れない電話番号。
不審に思いつつも電話の持ち主は通話ボタンを押し、耳に携帯を当てた。

電話の持ち主は何故通話ボタンを押したのかとすぐに後悔する事になる。

「今すぐこの携帯のGPSを辿って迎えに来て頂戴、この税金泥棒」
「おいテメエ開口一番にそれか?つか誰が税金泥棒だいい加減にしろこのクソガキ!!」

子供特有の高い声。
冷めた声音とその口調に彼はすぐに通話相手を特定させた。

―――彼が特定づけた理由は他にもある。
自分の携帯の番号を知っている事、何より自分達に向かって堂々と『税金泥棒』などと言えるのはあの女以外いないからだ。


あの女が何もない時に電話をかけてくる筈が無い。
それが見ず知らずの携帯からの連絡であるなら尚更だ。

彼は苦々し気に煙草を灰皿に押し付け、喫煙所から徐に立ち去る。



―――再会してから何年経っただろう。
彼女との関係は依然続いていた。



  ♪



「遅かったわね税金泥棒」
「なあ何でお前そんな偉そうなわけ?
お前はガキで俺は大人だぞ、ちったあ敬え!敬語を使え!」

「生憎敬う要素なんて無いから無意味」
「っ近藤さんだから俺は言ったんだよこの女の連絡なんて無視しちまおうって!
この女の事だどうせふてぶてしく生き残るに決まってんだからよ!!帰るぞ近藤さん!!」

「落ち着けトシィィ!
彼女も誘拐された身、きっと気が高ぶっているんだろう!
此処は大人になって、」
「あ゛ぁ!?何処をどう見てもいつも通りにしか見えないんですけど!
総悟と同じような顔してるようにしか見えねェよ騙されねえぞ俺は!!」


鬼だ、鬼がいる。

真斗は鼻でせせら笑うような幼馴染と鬼の形相で彼女に掴みかかろうとする緑がかった黒髪の青年、もとい土方を羽交い絞めする近藤と呼ばれた男の姿を戦々恐々と見ていた。
流石に初対面、しかも片方は警察という男達に真斗が声をかけるには高難度過ぎた。

幼馴染とはいえこうも平然といられる彼女の度胸は凄い。



・・・やはり彼女が言った通りの番号に電話をかけたのは間違いだっただろうか。

まさか助けを呼ぶ相手に『税金泥棒』などとのたまうとは思わなかった。
そして案の定電話の相手も激怒したのが隣りにいた真斗にも伝わってきたので本当に助けが来るのかと不安になったのは余談である。


パトカーに乗って現れたのは階級は警部の近藤勲とその部下であり警部補の土方十四郎だった。
この二人と灰音はただならぬ因縁があり、真斗自身も少しだけ聞いていた。


曰く、彼らがまだ幼かった灰音を実の母親から助け出したのだと。
自分と灰音が出会えたのは、まさに彼らのおかげでもあるのだと、漠然にそう感じたのを真斗は覚えている。


「・・・んで?このガキが日本経済を支える財閥の御曹司か?」
「!」
「そうよ、何か文句あるのかしら」
「いや?トラブルメーカーと一緒にいるガキだって聞いたからそのツラ拝んでおこうと思っただけだ。
・・・しっかし見るからに温室育ちって感じだな、大丈夫か色んな意味でこんな女と付き合っていたら身が保たねーぞ」
「な、」
「おいトシ口が過ぎる」
「もう一回女にしてやろうか」
「止めろ、不吉な事を言うんじゃねえその手を下ろせこのクソガキ」


ぎりぎりぎりぎり。

其処からは無言の睨み合いの元、灰音を抑える土方という一つの攻防戦が開始される。


目を据わらせ凶器を今にも振りかぶろうとする灰音は本気だ。
というより何処から凶器を取り出した。

「っ待て灰音、俺は気にしてないから!」
「何言ってるの貴方の事じゃなくて私は私が貶されたから天誅を下そうとしているのよまあ貴方の分も一割位は入れておいてあげるわ」
「おいお前コイツの何が良くて一緒にいるんだ、良いのは外面だけで中身はとんだじゃじゃ馬、ぐはっ!!」


どすっ


そんな鈍い音と同時に灰音の右ストレートが決まり、近藤は内心で彼女の戦闘力は健在らしいと理解した。


「・・・君も大変だな聖川真斗君」
「・・・もう慣れました」


短気で気性が荒い土方十四郎と毒舌で人間に無関心な草薙灰音の相性は悪い。悪すぎる。
そんな二人の激化するもみ合いに流石の近藤も仲裁に入らなければいけない程になっている。

・・・相手が子供姿なだけに部下の土方が大人げなく見えるのは気のせいではないだろう。

彼女は前世の記憶も持っていてそれなりに経験があるから良いが、もう一人保護された少年、聖川真斗はそうではない。
気丈にふるまってはいるが顔色は決して良好とは言えまい。


正直、"荒神"の傍で一緒に育ったと聞いた時はどうなると思ったが・・・。


「・・・意外と良い関係を結んでいるようだな」
「―――え?」


そう小さく呟いたのを、真斗は聞き返すも近藤は笑って誤魔化したのだった。

  黒き警察との再会劇

実は彼らを出したくて過去編を書いたという裏話。
個人的に彼らを出すつもりはありませんでした←

20150802