巡ッテ廻ッテ乙女ト青 | ナノ
嘘だと叫びたかった。
どうして私の目の前に立っているのが貴方達で、どうして先生じゃないの。

"あの時"と同じように助けてくれるなら、先生が良かった。


『おい君!大丈夫か!?
っ酷いなこりゃ・・・傷だらけじゃないか!
トシ!救急車だ!早く呼んでくれ!』
『今かけるからちょっと待て近藤さ、・・・・・・オイそいつまさか、』
『トシ?』
『・・・・・・お前、』
『・・・・・・』



頭が痛い。いや体中が痛い。

というよりあまり動かさないでほしい。
怪我人を労わる事も出来ないのか。

・・・ああ、でも。
これでようやく終わる。

何処かで聞いた事のある声だったけれど、きっと気のせいだ。
瞼を持ち上げる事すら困難だ。
・・・もう、良いよね。もう、休ませて。


そう、誰に言うでもなく少女は本能に従って瞼を下ろそうとする。
しかし完全に目を閉じるまでの一瞬だけ、自分を見下ろす男の唇の動きが自分もよく知る単語を口にしたような気がした。


『荒神』


その単語は、かつて銀髪を血に染めても尚相手を切り伏せてきた女の呼び名。
『白夜叉』『狂乱の貴公子』『鬼兵隊総督』『桂浜の龍』と並び称される二つ名を知る人間はこの世界にはいない、筈だった。

だがその単語を自分に向けたと、いう事は。

それが意味する事はただ一つだ。




そうして、少女の瞼は力無く閉ざされた。



  ♪



記憶にある"彼女"を一言で表すなら、『儚さを体現化させた美女』である。
儚さの代表例とされる雪色の髪と肌の色。
誰もが息を呑むであろう玲瓏たる美貌。
ニコリとも笑わないその姿から、まるで人形のようだと思わせる。


それが、自分達―――近藤勲と土方十四郎が知る草薙灰音だった。
攘夷戦争を知る者なら誰もが一度は聞くだろう存在、『荒神』が彼女だと気付く人間なんているだろうか。


土方はそう思いながら、目の前にてベッドで眠る幼女を見下ろした。
全身を包帯で巻かれた肢体が何とも痛々しい。

"あの時"は二十代半ばの容姿だったが今は十にも満たない幼女。
前者と後者で十以上も年の差はあるが面差しは瓜二つ。

土方と近藤の中で、それは最早確信だった。


「トシ。彼女は、覚えていると思うか?」
「・・・さあな。んな事、コイツに聞きゃわかるだろ」

前世を覚えているという事は、生きる事においてはただの足枷でしかならない。
ただの弊害でしかならず、覚えている限り葛藤とジレンマの波に耐えなければならないのだから。
そして理解してくれる者がいなければ、自分が何処にいるのかさえ分からなくなる。

神様とやらがいるのなら答えて欲しい。

―――何故自分達は、記憶を持ったまま生まれてきたのかを。



物思いに耽けながら、彼等の長い夜が明ける。
そして、再び彼等は邂逅する。


20141211