巡ッテ廻ッテ乙女ト青 | ナノ
「・・・・・・灰音?」
「・・・ああ貴方、ようやく目が覚めたの?」
「ようやく?・・・・・・・・・灰音、此処は何処だ?
というより、何故俺は縄で両手足を縛られているんだ?」
「私に聞かなくても貴方ならもう分かっているでしょ」

真斗は記憶を遡らせると神社にて彼女と一緒にいたのは覚えている。
自身も彼女も、今の服装はそれぞれ学生服。
記憶にあった最後に見た服装と同じである。

二人共縄で拘束され見知らぬ場所にいるという事はそれ即ち、つまりこの状況は。

「・・・・・・誘拐か?」
「それ以外無いわよ。
全く私までとばっちりをくらう羽目になったわ・・・」

深い溜息を吐いた少女は徐に両手首を縛っている縄を見て―――ゴキリ、と関節を外した。
その音が部屋一面に嫌に響いた。

「・・・・・・・・・・・・」

有り得ない物を見た、と言外に訴える真斗の視線も何のその。
灰音はそのまま縄を解いて、そしてまたごきりと音が響く。

「・・・・・・灰音」
「何」
「今何を・・・」
「関節外したら縄なんて簡単に解ける」
「・・・・・・・・・馬鹿か、お前は馬鹿なのか!?
何処の世界に自分から関節を外す馬鹿が、」
「此処にいるじゃない」
「――――――ッッ!!」

あっけらかんと答えた幼馴染に今度こそ真斗は人生で初めて声にならない声を上げたのだった。



  ♪



「灰音が規格外と知っていたが此処までとは思わなかった・・・」
「人間はこうして強くなっていくのよ」
「知りたくなかった」
「まあこれで私が貴方の縄を解けば良いだけだし・・・・・・」

両手足の縄を瞬く間に解いた灰音は徐に真斗の両手の縄の結び目に手を付ける。

ぐっ、ぐい・・・ぐい、

「・・・・・・・・・・・・・・・固いわね。
貴方誘拐犯に固めでお願いしますとか注文したの?」
「っするか!!」

誘拐されたにも関わらずイマイチ深刻さが伝わらないのは何故だろうか。

「でしょうね。貴方ずっと気絶してたし」
「ぐっ」
「・・・まあ、女子供の私が簡単に取れるような結び目を誘拐犯がする筈がないか・・・」
「灰音でも無理なのか?」
「・・・貴方私の事何だと思っているの?」
「最強中学生」
「あのね、確かに身体能力が高いのは認めるけどだからと言って馬鹿力なんて無いわよ。
純粋な力勝負だと成人男性には流石に負けるわ」
「では俺がお前と腕相撲をしたら俺が勝つのか」
「・・・・・・まあそうなるわね」
「そうか。なら良い」
「・・・何が良いのかさっぱり分からないんだけど」

怪訝な表情で自分を見る銀色の幼馴染にふと微笑する。
昔から色々な分野で秀でていて勝った事なんて本当に少なくて。
いつだって悔しかったが此処でようやく彼女に勝てるものが見付かったのだ。
シチュエーション的にはどうかと思うが凄く嬉しい。

「気にするな」
「人間、そう言われると気になる生き物なんだけど」
「だから気にするなと言っている。
・・・灰音、縄をどうやって解いたら良いだろうか・・・」
「・・・そうね、単純な話焼くか、切るかでしょうね」
「だが鋏等あるわけが」
「貴方何か持ってないの?」
「持っているわけが無いだろう」
「だったら奥の手を使いましょう」

青灰色の双眸に不穏な光を宿したのを真斗は見逃さなかった。
それと同時に背筋に悪寒が走った。
・・・これまでの経験から考えると良い予感がこれっぽちもしない。

「待て灰音、」
「待てと言われて待つ人なんていない」
「お前何を考えた!?」
「・・・言って欲しいの?」

滅多に見ない灰音の微笑。
希少価値が高いそれは本来、赤面が必須なのだがこの時ばかりは違った。
微笑は微笑でも冷笑。
もしくは皮肉が入ったものだった。

ひくり、と引き攣る口角。
真斗は両手足が縛られているこの状況ではどう足掻いても銀髪の幼馴染を止められない事を悟った。
そして心中で合掌する。

せめて骨は拾ってやろうと。
きっと本当の誘拐はもっと恐ろしくて怖いのだろうが灰音がいる限りそれは無いだろうな、と真斗の中で漠然とその思いが過ぎった。

「・・・聞きたいような聞きたくないような」
「その状況だと耳を塞げないんだから言っても言わなくても同じでしょ。
丁度良いわ、これも一つの経験。その目でしっかりと見届けなさい」
「お前の犯罪ギリギリの行為をか?」
「人聞きの悪い事を言わないで頂戴、これは然るべき報復。
よく言うでしょ、自業自得・因果応報・身から出た錆。
自分が撒いた種なんだからしっかりと自分で摘み取って貰わないとね」
「・・・」
「それにほら、天網恢恢なんて言葉があるんだから大丈夫よ」
「お前の大丈夫程信頼出来ないものは無い!!
顔を真っ青にしながら大丈夫と言った一秒後には気絶しているくせにどの口が言う!」
「それはそれ、これはこれよ」
「灰音ーーー!!」

温度差がありまくりな二人の会話は更に勢いを増し、その騒ぎを聞きつけた誘拐犯の一人が全ての台詞を言い切る前に地面に沈んだのは余談である。

  二人を繋ぐ糸

二人が揃えば例え誘拐されても不毛な会話を続けるというオチ。
レンとはまた別な一面を真斗が主人公に見せていたら良いなあ。

20140220