巡ッテ廻ッテ乙女ト青 | ナノ
!先輩組初邂逅編if話
!アニメ二期四話沿い


突然ソレは降って来たのだが彼女の表情は一切揺らがなかった。
灰音が突発的アクシデントには殆どの確率で動揺する事は滅多に無い。


一応注釈しておくが彼女の場合、前世の関係でぶっとんだ出来事を体験しているからであって、決して『何があっても』なんて事は無い。

今回の件は前者だ。
突然人が空から降ってくる、なんて事は灰音にとっては動揺する事ではなかったが、代わりに心に浮かんだのは「死んでいたら後片付けとか面倒臭そうだ」の一つだけで。
色々違う、なんて突っ込みを出来る人は居ない。
何故なら今この場に居るのは彼女とその降ってきた人物だけなのだから。



・・・しかしそんな彼女の思いを裏切るようにその降ってきた人物は声を高らかに空に響かせた。


「ハーッハッハッハ!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」


・・・・・・明らかに不審者だ。

灰音は無言でそう判断し、すっと内心で身構える。
見る者が見れば、目前の人物に気付くのだが灰音の場合は違った。
無知は最大の罪だ、と言ったのは誰だったか。


「ユーが草薙灰音デスねー?」
「人違いよ」

不審人物の質問に間髪いれずNOと答えた灰音。
言ってしまった後で彼女はある事に気付く。


(しまったNOの即答は逆効果・・・!)
「ムムッ嘘はいけまシェーン!
ミーの勘は優秀デース、ユーは確かにミーが探していた人物デース!」
「・・・・・・は、」
「ユー、ちょっとミーに着いて来て下サーイ!」
「断固拒否す、」


ドスッ


腹部に衝撃を感じたと脳がそう判断した瞬間、灰音の視界はブラックアウトした。



  ♪



次に灰音が目を覚ましたのは漆黒にも似た色だった。

「・・・・・・・・・、・・・?」

次に感じたのは温もり。
あまり感じた事は無いが、十中八九人間だ。
そして誰かの腕によって自分の身体を支えている様だった。


「・・・ぇ・・・」


重い瞼を上げて、鉛の様に重い身体に鞭をうち灰音は自身の身体を支えている相手を見上げる。

―――其処には見慣れた青色があった。


「起きたか灰音」
「・・・・・・・・・・・・一体全体どういう状況で、私は何故此処に居るのか簡潔に説明して頂戴」


灰音の言葉は至極真っ当な発言だった為、青色もとい真斗は渋い顔をしつつも状況を説明したのだった。



  ♪



灰音は一旦事情を整理する為グルリ、と部屋を一周する事で部屋に居る人間の顔も視界に納めた。
やたら顔が整った人が多い。
否、多いのではなく全員がそうだ。

何かの美形コンテストでもやるのだろうか。

これが彼女が最初に思った感想である。

「・・・事情は、分かったわ」
「・・・そうか」
「理解はしたけど納得なんて髪一筋たりともしていないけどね」
「だろうな」


舌打ちせんばかりに機嫌が急降下している幼馴染に真斗は依然渋い顔のままだ。
彼女じゃなくてもいきなり誘拐されたら皆同じ様な反応を返すだろう。


「ま、まぁ来ちゃったものは仕方無いし!」
「お久しぶりですね灰音ちゃんっ!」


場の空気を変えようと発言した音也に続き、心底嬉しそうな表情をした那月に灰音は青灰色の双眸を瞬かせる。
二人の近くに居た他のメンバーであるトキヤ達も反応こそ違えど、何処か同情にも似た顔をしていたのを灰音は見逃さなかった。


そんな顔をする位ならあの不審者もとい上司を止めてくれ。


灰音は切実にそう思った。
その瞬間。


「おい女、テメエ今の状況分かってんのか?」


記憶に無い声が鼓膜を震わすと同時に灰音の目の前に灰色に近い髪の男性が不機嫌極まりない表情で見下ろしていて。
思わず彼女は青灰色の双眸を細めた。


「理解はしたけど納得はしていない」


理由は一切不明だが売られた喧嘩は買う。
勿論返品不可。


「礼儀がなっちゃいねぇな。
年上には敬語くらい使え」
「ちょっと待ってランちゃん・・・」
「黒崎さん、」
「ラーンラン、言い過ぎだよ!言い方を考えて!」


鋭い眼光に耐え切れず泣くのではないか、と灰音を知らない嶺二は彼女を庇おうと口を挟む。
しかし逆に彼女を知るレンと真斗は危機感を覚えた。

鋭い眼光に睨まれた位で泣いてしまうような可愛らしい性格だったらどんなに良かったか。
目の前に居る銀髪の美少女は容姿を100%裏切った性格をしているのだ、灰音にとって蘭丸は精々小動物がきゃんきゃん吠えている位の感覚だろう―――。



「貴方が年上だろうが俺様だろうが、私にとって貴方達なんて誘拐犯の手下其の一(以下略)以外の何者でも無いわよ」

カーン、と予想以上の言葉をバットで打ち返された。
今までに無い反応に蘭丸を含め嶺二も二の句が告げない状態になり、次いでその場に居たメンバーは思わず沈黙したのだった。

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続くよ!

20120908