巡ッテ廻ッテ乙女ト青 | ナノ
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・眠、い」

うとうとと転寝しかける彼女に真斗は一瞬沈黙する。

「・・・灰音、因みに昨日は何時に寝た?」
「・・・・・・暑かった、からあまり・・・寝付け、な、・・・くて・・・そんなに寝てない・・・」

たどたどしく放たれた言葉に溜息を吐く。
彼女がこういった事になるのは何も初めてではない。
寧ろ夏限定で日常茶飯事である。

「・・・・・・仕方無いな」
「・・・・・・・・・ぅー・・・?」

蒼銀色の長い髪が揺れ、その中から覗く青灰色の双眸がゆっくりと真斗に視線を合わす。
しかしその双眸も夢と現実の狭間を彷徨っている様にも見える。

ぽすん

「・・・・・・・・・・・・ぇ、」
「寝るのだろう?
肩を貸すから暫く寝てると良い」
「・・・・・・・・・・・・分かった、」

真斗は自身の肩に寄り添う様に眠る灰音を見て、起こす時どうすべきか十五分程悩む事になった。

+おまけ+

(覚醒後)

「・・・・・・・・・何でこんな体勢になってるの?」
「・・・・・・・・・覚えてないのか?」
「・・・・・・・・・・・・え?」

文字通りの小話でした。



「・・・・・・ダーツ?」


胡乱気に自分を見る灰音にレンは苦笑する。
因みに灰音の隣りには同じ様な顔をした真斗が居る。


「そっ。
オレの趣味はダーツなんだ。
やってみないかい?」
「・・・・・・・・・・・・」

手渡された一本の矢に灰音はくるりと掌で軽く一周させる。
真斗は眉間に皺を寄せつつレンを見て一言。

「・・・お前何を企んでいる?」
「人聞きの悪い事を言わないでくれるか聖川。
そもそもオレはレディ、」
「その名で呼ぶなって何度言わせたら気が済むのよこのトリ頭」


トリ以下か、と言外に聞こえた台詞にレンの余裕のある笑顔は凍りつくが真斗は気付かれないように嘲笑にも似た笑みを浮かべる。

きっとこれから先もレンは彼女にこういった態度をとられるのかと思うと何故だろう胸が痛い。
ぐっとレンは胸の痛みを堪えながら、少し引き攣った様な笑みを浮かべる。

「・・・彼女に話してるんだ。
お前には関係が無いだろう?」
「関係大有りだ。
灰音は俺の幼馴染だからな、何処の不埒な輩に手を出されてはかなわん」
「その不埒な輩っていうのはまさかオレの事じゃないよな?」
「現在該当するのは貴様だけだ」
「・・・・・・言うねェ」
「事実だ」

「・・・・・・・・・・・・」

二人の口喧嘩をBGMに灰音は無言で少し離れた壁に立てかけられたダーツの的に視線を向ける。
次いでレンから手渡された矢を搆え、静かに放とうと動いた瞬間。

「・・・む、灰音?」
「何だ結局やるんじゃないか、だったらオレが手取り足と―――」

レンが灰音の蒼銀色の髪に触れようと背後に立った瞬間。

無言無表情だった灰音が小さく「・・・・・・あ、」と声をあげる。
その声に真斗とレンはどうしたと口を開こうとした瞬間、悲劇が起きた。


ゴッ


灰音の手元から放たれた矢は綺麗に放物線を描いて前に行く筈だった。
しかし実際は勢い余ってか、放つタイミングが失敗したのか―――矢は綺麗に前ではなく後ろに放たれてしまった。
・・・しかもただ後ろに行くだけでなく、矢は寸分の違い無くレンの額にストレートでぶつかるという、奇跡の様な結果となった。

「・・・・・・・・・・・・!!」
「・・・・・・・・・大丈夫?」

痛みに悶えるレンに流石の灰音も見かねてか、労わりの言葉を放つ。
レンの不穏な言葉など、聞いていなかったらしい。
聞いていたら絶対にこんな言葉を言わなかっただろう。

思わず手を額に近付けようと動かした瞬間、がしっと真斗の両手が灰音の両手を包み込む。

「・・・・・・・・・何?」
「灰音・・・・・・」

顔が俯いている所為で灰音は真斗の顔がよく見れず、行動の目的が見えない事もあり、困惑した。
が。

「よくやった」
「・・・・・・は?」

それも一瞬の事で、真斗は勢い良く顔を上げると彼女に賛辞の言葉を贈る。
その行動の意味に灰音は凍りつく。


・・・・・・・・・・・・何故褒める?

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・おい聖川」
「何だ神宮寺、怪我が痛いのならすぐに怪我といわず、頭の治療をしてこい。
もう手遅れかもしれんが、まあ気休めにはなるだろう」
「言ってくれるね・・・・・・!」
「自業自得だ馬鹿者」

「・・・・・・どうでも良いけど真斗、この両手離して頂戴」


レンの趣味がダーツ、と聞いて思い浮かんだネタ。
私が書く小説ってこんなんばっかだ・・・(遠い目


20120829(20140709再録)