巡ッテ廻ッテ乙女ト青 | ナノ
ある日の昼下がり。
いつも通り真斗は灰音の居る神社に来ていた。
・・・手に、一つの手土産を持って。

しかし、その存在によって真斗は思いもよらぬ事態に遭遇することになる。

「・・・・・・真斗。
一つ聞くけど、それ、は・・・」
「?ああ、此れは菓子だ。
沢山頂いてな、今日はおすそ分けも兼ねて此方に来たんだ」

青灰色の双眸に恐怖にも似た感情を宿らせ、あの気丈且つ強気な灰音が徐々に後ずさりする光景に真斗は目を丸くした。

「・・・灰音?」
「・・・・・・・・・真斗、それを持って今すぐ回れ右をしなさい」
「何故だ、訳を・・・、・・・・・・・?」

蒼銀色の長い髪によって分かりにくいが灰音の白い肌は通常よりも白い。
というより、血の気が引いているようにも見える。
更にいつも澄ました顔をする灰音だが今は顔が引き攣っている。

「・・・灰音?」
「―――ッ嫌嫌嫌無理無理無理本当に駄目なの、だからっ・・・」
「・・・・・・(グサッ)」

灰音に此処まで全否定をされたことが無かった真斗は精神に大ダメージを喰らい、立ち直れないかと思ったとき。
灰音の青灰色の双眸が自分ではなく手元にある菓子を見ている事に気付いた。

「・・・灰音、まさか」

菓子が苦手なのか?


その言葉に、灰音はうっと言葉に詰まり、そして。
静かに視線をズラし、一言呟いた。


「・・・・・・あまり、良い思い出が無いのよ・・・」

苦虫を数百匹噛み潰したかのような横顔を見て真斗は先程のダメージが軽減したような気がした。



「・・・灰音、大丈夫か?」
「・・・・・・・・・」
「・・・意外だったな、まさか灰音が甘いものが嫌いだとは思わなかった」
「・・・・・・"昔"、大の甘味好きが白米の上に餡子一缶まるごと乗せたモノを平然と食べていて・・・それをあろうことか、私に・・・」
「・・・・・・・・・(食べさせられたんだな)」

縁側に座らせた灰音の膝の上にある拳がわなわなと震えるのを見て、何となく真斗は事情を察した。
そして同情する。

そんなモノを食べさせられたら確かにトラウマになる。

「・・・・・・・・・」


真斗は内心自己嫌悪した。
良かれと思ったことがまさかこんな事になるとは。


「・・・ではこれは持って帰ることにしよう」
「・・・否、父さんに預けておいて頂戴・・・。
私は無理でも父さんなら食べられる筈だし・・・」
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・何よ」
「いや・・・」

灰音の口からそんな言葉が聞けるとは思わなかった。
寧ろ、『当然よ私の視界からとっとと消えろ』等の冷たい言葉が出るかと思っていた真斗にとって灰音の言葉は少なからず衝撃を覚えた。

此処等辺が彼女の普段の言動が如何に冷たいか分かるだろう。

今日はそんな白い幼馴染の弱点の一つを知れた、昼下がり。

主人公が話していた人物は勿論、銀時のことです。
因みに彼女に甘味を食べさせた後もれなく気絶します。




!時間軸:中学生

私には所謂前世の記憶を持っているので大抵の事は知っている。
しかし。
そんな私でも分からないことが一つある。


「・・・父さん」
「何です灰音?」
「一つ聞きたいんだけど・・・」

それを現世の養父に尋ねたのだが。
その時の父さんの顔が今も忘れられない。


「・・・・・・真斗」
「?何だ灰音」
「聞きたいことがあるんだけど」
「・・・珍しいな、灰音が俺に質問など」
「・・・・・・・・・」

真斗が思わぬ事態に思ったことをそのまま口に出すと、灰音は案の定真斗を睨みつけた。

「す、すまん。それで、何を聞きたいんだ?」
「・・・・・・・・・・・・子供ってどうやって出来るの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・は、」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


真斗はゆっくりと彼女の発言をリピートする。
次いで真斗の予想を斜め上に超えた灰音の発言もとい質問に思考が凍りついた。


・・・今彼女は何と言った?

「悪いがもう一度言っては貰えないだろうか」
「子供ってどうやって出来るの?」

聞き間違いじゃなかった。
からかっているのだろうか、と思って灰音を見るが真顔だった。
つまり、灰音は素で聞いている事になる。

「・・・・・・一つ聞くが先生に聞いたのか?」
「・・・父さんに聞いたら何故か笑顔が凍りついた」

納得。
確かに先生こと、彼女の養父・輝石には荷が重い質問である。
否、それは自分もだけど。

「・・・灰音、力になれなくてすまないが俺にはそれを教えられない。
だがその質問だけは信頼出来る人にしろ、誰にでも質問することではない・・・!」
「・・・寧ろ何で貴方の顔が赤くなっているのかを教えて頂戴。
というより貴方知っているのに何で教えてくれないのよ」

本当に理解出来ない、といった灰音に真斗は答えるのを全力で拒否した為、灰音はその質問の答えに辿りつく事はなく。

前世では桂に「まだ教えるのは早い!」って言って銀時達を物理的に黙らせていたと思う。
補足:真斗は養父のことを『先生』と呼んでいます。




「おい神宮寺!一体何度言えば分かるのだ!」
「聖川の言葉なんて聞くわけ無いだろ?このオレが」
「・・・っ今日という今日は許さん!
其処へ直れ、叩き切ってやる・・・!」

グイッ

「・・・!
オイ聖川、」
「!」

バッターーン!!


  ♪


「・・・・・・」

又、何かしでかしたのかしら・・・。


灰音の柳眉が僅かに逆立つ。
青灰色の双眸が細くなり、次いで視線を大きな音がした方へと移動させる。

「・・・・・・はぁ、」

灰音は気が進まないという雰囲気を滲ませつつも、重い腰を上げて幼馴染の元へと向かう事にしたのだった。



「くっ・・・」
「おい神宮寺、さっさと、」

苛立ちを抑えきれないのか、真斗の眉間には皺が寄っており、海色の双眸はしっかりと自分の上に乗っているレンへと視線を注ぐ。
次いで一刻も早く退いて貰う為、自身の手をレンの肩に手を添えた、その時。


「ねぇ、さっきの音といい、貴方達一体何し、て・・・」
「っ灰音・・・!」
「レディ!」

蒼銀色の長い髪を揺らしつつ姿を現した幼馴染に真斗はさっと顔を青褪めた。

・・・マズイ。

真斗とレンの脳内にはこの一言しか浮かばなかった。

「ち、違うんだ灰音此れは・・・!」
「これは事故なんだ、分かってくれるよねレディ、」
「・・・・・・邪魔をしたわね。
どうぞごゆっくり」
『違うッ!!』
「・・・冗談よ」

喧嘩ばかりしているが実は仲が良いんじゃないか、と疑ってしまう程息がぴったりな二人に灰音は半ば大げさに溜息を一つ吐いたのだった。

『花雪』に便乗してみた(笑
『乙女』の場合、こうなります。
此処等辺の対応はまさに経験の差、と言った所でしょうか。


20120614