巡ッテ廻ッテ乙女ト青 | ナノ
「・・・たった一回会っただけの人間にもう関わるなという忠告かしら?」


話を聞いているとどうも昨日の彼は大きな財閥の御曹司らしい。
ならあの青い幼馴染の傍付きである老人と同様、警告でもしに来たのか。


灰音が静かにそう考えを張り巡らしていると、執事は一瞬目を丸くさせたがすぐに微笑する。


「否、寧ろその逆だな」
「・・・・・・・・・は?」


不穏分子として認識されるならまだしも、その逆?
という事はつまり、仲良くしてくれと?
・・・どう頭を捻ったらそんな結論になるのか。

先程とは打って変わって今度は灰音が予想外の展開に目を丸くする。


「・・・こんなあからさまに怪しい人間を大事な御曹司に近付けるって問題大アリだと思うんだけど」
「そうだな怪しさ満点だが・・・アイツに良い影響を与えてくれると俺が判断した。ただそれだけだ」
「・・・言っている事は理解したけど、言いたい事がよく分からないわね。
結局貴方は私と彼を仲良くさせてどうしたい訳?」
「・・・別に何も。
ただ対等にアイツ自身を見てアイツの話を聞いて―――普通に、接してくれたらそれで良い。
今のアイツの取り巻く環境は普通じゃなくてな・・・」
「それ、別に私じゃなくて良いわよね」


それは極力人間に関わりたくない灰音の切実なる意見だった。
だが周囲の人間―――彼女の養父や真斗はそれではいけないと人と接しないといけない状況を作る。
恐らく今回の件もその為の策だろう。


「私は人間に興味が無いし寧ろ大嫌いだと思っている。
・・・そんな私が貴方の願いを叶えられる訳が無い」
「・・・・・・」
「それに私は神奈川在住じゃないし、そんな事を言われても困るわね。
仮に彼が私との接点を望んでも遠い所にいる時点でそれも難しいでしょうし」


はぁ、と深く溜息を吐く少女の仕草はやはり年不相応なもので。
紡ぎ出される言葉の数々もそれが垣間見える。


「・・・そうだな。
確かに一理ある。
だがそれでも、アイツは酷く人間関係が乏しいが故に愛情を信頼を欲しているんだ」
「・・・他人から無理やり勧められた、と知ったら彼、少なからずショックを受けると思うけど」
「きっかけなんて何でも良い。
重要なのは其処ではなく、その過程と結果だ。
見たところ、レディは外見や財閥などの肩書きに左右されないだろう?」
「長いものに巻かれたくなんて無いし、寧ろ要らないわ」


そんなものに縛られる位ならいっそ俗世を捨てて世捨て人になりたい。
それか引き篭りたい・・・。

灰音は何となくそんな事を思っていたが恐らく・・・否確実に叶う日は来ないだろうという事も悟っていた。
理由は言わずもがなあの幼馴染だ。
問答無用で外の世界に引き摺っていきそう。


「いっそ巻かれた方が楽な時もあるかもしれないのにか?」
「そんな事される位ならいっそ死んだ方がマシよ」


そう言い放った少女の双眸はとても小学生のものとは言えない、死んだ魚のような目をしていたのだが、それを知るのは円城寺一人だけだった。



  ♪



「用件がそれだけなら私は帰るけど・・・一つ忠告しておくわ」
「忠告・・・?」
「忠告というよりは警告かしら。
詳しいお家事情なんて知らないけど、あの子をあのまま放っておくといずれは誰も信じられず自暴自棄の塊になって俗に言う不良みたいになっても可笑しくないわよ」
「な、」
「"誰か"に好かれようと努力して努力して・・・それでも認めてくれなくて。
その"誰か"にある程度早く見切りをつけたら良いけど、そうする前に先立たれでもしたら彼がどんな精神状態で、その後どう動こうとするのか想像するのに難くないと思うけど」


淡々と話す言葉に見られる可能性の一つ。
今は大丈夫でも、未来はそうではない。

彼女の言う"誰か"とは言わずもがな彼の実父。
愛人の子供と疑われ、家族内にも使用人にも空気のような扱いを受けてきたレン。
そんな彼を自分はずっと見てきた。


・・・確かに、その可能性は否めない。
傷付いても傷口を隠して、なりふり構わずやり方を変えて必死に認めて貰おうとするその姿は見ているだけでも痛々しいの一言に尽きた。
まるで見てきたかのように話す彼女に円城寺は一瞬息を呑む。


「私が言いたいのはそれだけ。
後は貴方と彼次第よ」
「・・・・・・手厳しいな。
最後に一つ、聞いても良いかな?」
「・・・一つだけよ」


胡乱気に見る少女に円城寺は真顔で誰もが予想しなかったであろう質問を口にした。


「先程から気になっていたのだが、レディの人間嫌いというのは今で言う中二病という奴か?」
「・・・・・・・・・・・・・・・」


言い終わるや否や、灰音の手から猛スピードで繰り出されたスーパーボールが見事円城寺の顎にクリティカルヒットしたのはまた別の話である。

  シリアス終了のお知らせ

ラストの言葉はふと思い付いたのでオチに使用してみました(ニヤリ
そして3章で書きたかった台詞は一応書けたので良かったです。

20130622