巡ッテ廻ッテ乙女ト青 | ナノ
さぁさぁと風が吹く事で蒼銀色の髪が靡く。

灰音が橙色の髪の少年と会った翌日。
用事も終わったのでとっとと京都に帰ろうと支度を済ませた灰音は徐に日除け対策として帽子を被り、更に日傘を使おうとしたのだが。
背後から一つの気配を感じ取ったのと青灰色の双眸がゆるり、と細くなったのは同時だった。


「・・・」


気配は一つ。
自分がこの世界に産み落とされて十年近く経ったがその中でも只者では無いと分かる位の鋭利な視線、隙の無い身のこなし。
"昔"の事が無ければきっと気付かなかったであろうモノ。

しかし、自分は平和ボケした人間ではない。
それは最早一種の本能。
身体と心に刻まれた、未来永劫消える事の無い記憶。


生命をこの手で摘み取る、刈り取る感覚は今も尚残っている。



「・・・誰だ」
「・・・」
「・・・名乗らないようなら、姿を現さないのなら此方とて容赦情け問答無用で殺るけど」

す、と青灰色の双眸に昏い光が灯る。
その目は、嘗て真斗の世話役が子供が出来る目ではないと言わしめるものだった。


「・・・やれやれ俺の気配に気付くとは・・・レディ、一般人ではないな」
「この私にそんな巫山戯た呼び方をする貴方の方が一般人じゃないと思うけど」


現れたのは燕尾服を纏った、一人の男。
灰音は特に反応を示さなかったがある事実に眉を顰めた。

燕尾服の下から分かる、筋肉。
それは特殊な訓練でも積まない限り、身に付ける事は無いと断言出来る位の。
自分達との距離間は約5m。
その距離を現在進行形で狭めていく彼の足運びはまるで隙が無い。
・・・武を嗜む者独特の立ち振る舞いに灰音は自分との実力差を瞬時に弾き出す。


(私の体が成人済で、且つ日本刀を持ってたら余裕でしょうけど今の体だと・・・・・・、傷一つ負わずに勝つのは不可能というところかしら)
「ふ、これは手厳しい。
・・・さて雑談は置いておいて・・・早速本題に入ろうか」
「貴方と話す事なんて何も無い」
「生憎此方にはある」
「知らない人と話してはいけないという常識は何処に行ったのかしら」


燕尾服を着た男にとって、様々な角度から見ても小学生と会話をしているとはとても思えなかった。
彼が世話をしている少年もある境遇故に年不相応な面が所々見受けられるが、それも彼女と話してみて痛感した。


アイツは此処までではない。
年不相応な所はあれど子供特有の詰めの甘さがある。
だが彼女―――草薙灰音という女子は全く違う。

身のこなしも立ち振る舞いも言動さえも。
まるで一定の成長を一度経験しているかのような、ちぐはぐな違和感。
身体と精神が一致していない。
一体、どう育てたらこんな風になるのか。
彼、円城寺円の内心はそんな思考が巡っていた。


「俺は円城寺という者だ。
昨日会った神宮寺レンの世話役をしている」
「・・・神宮寺?」
「あのオレンジ頭の少年だ」
「・・・・・・ああ、」
「・・・・・・・・・・・・」


灰音の生返事に円城寺は一つの可能性に気付いた。
・・・まさかこの少女・・・。


「・・・神宮寺という姓を知っているか?」
「興味無い」


まさかの一刀両断の台詞に円城寺は二の句が告げられなかった。


「(まさかとは思うが・・・本気で言っているのか・・・?)
・・・・・・・・・」
「・・・・・・」


・・・本気だ。
日本を代表する二大財閥の一つ、神宮寺財閥を本気で知らないと言い放った灰音に円城寺は戦慄した。
戦慄した事なんて戦場でも無かった筈なのだが。
・・・・・・・・・将来が末恐ろしい。


「・・・神宮寺は日本が代表する財閥の一つだ」
「(・・・前に似たようなフレーズを聞いたような・・・・・・あ、)
・・・・・・聖川家の・・・・・・」
「・・・今君が言ったその聖川は神宮寺と並ぶ、日本が代表する二大財閥だ」
「へぇ・・・心底どうでも良い」


灰音は文字通り心の底から興味無さげな声音を出す。
一方それを的確に感じ取った円城寺はひくり、と口角を引き攣らせた。

聖川を知っているくせに神宮寺を知らないとはどういう了見だ。
大抵の人間は聖川と神宮寺は殆どセットとして覚えられていると思っていたのだが。

一方、円城寺の思考の事など露知らず灰音は依然、澄ました表情を浮かべたまま。

此処でおさらいをしておくが彼女の中で、真斗に会う前よりはマシになってきてはいるものの、根本的な性格―――人間嫌い、世界に興味無しという部分は変わっていない。
故に世界の情勢に関して灰音はかなりの無知であるのだがそんな事を円城寺が知る由も無く。


(・・・というか"今"の私ってお金持ちの血縁者との接触多すぎるような・・・。
私そんな願望あったかしら?)


どうせなら"昔"の幼馴染と会いた・・・否やっぱり無し。
今会ったら馬鹿にされそう。色々な意味で。


「・・・あ、話がそれだけなら帰って良いかしら?」
「い、否少し時間を貰えないだろうか」


関わりたくないという気持ちを前面に押し出しての灰音の台詞に、円城寺は自分の調子が更に狂っていくのを確かに感じ取ったのだった。

  腹の探り合い

という訳で第3章で絶対に出すと決めていたキャラ二人目、登場です。
しかし主人公、相変わらずブレない。流石です。
多分主人公がutpr世界にて純粋な戦闘で敵わないのって多分那月(砂月)と早乙女位だろうな・・・。

20130530