それからどうなったのかというと。
オレンジ色の髪の少年、神宮寺レンに目的地まで案内して貰う事になった灰音はレンの一歩後ろで歩いていた。
「そういえば君はこの近くに住んでいないのかい?」
「ええ、今日来たのはただのお使いだから」
「ちなみに何処から?」
「京都」
「・・・・・・京都?」
「京都」
レンの笑顔が凍り付いたのを見て、灰音は悟る。
・・・ああやはりあの人の感覚ってズレているのか。
「京都からか、それなら道が分からなくても当然か。
京都は良い所が沢山あると友人に聞いたんだけど、やっぱり君から見ても良い所かい?」
「・・・そうね、私が住んでいる所は静かで良いと思うわ」
青い幼馴染を一瞬だけ脳裏に浮かべながら灰音は遠い目を向ける。
その視線の先が京都だったのだが、それは無意識か偶然か。
♪
「・・・ねえ君は大事な人っているかい?」
「・・・・・・大事な人?」
「そう」
「・・・・・・さあ、どうなんでしょうね」
「教えてくれないんだね・・・オレはいるよ。大事というか認めて欲しい人が」
「・・・そう」
「今は認めてくれないけどいつか絶対に認めて貰うんだ」
「・・・・・・」
眩しいと純粋に思う。
あの青い幼馴染とは別の、どうしようもない感情が湧き上がる。
「一人よりも二人の方が断然良いに決まっている。
だから辛かったら傍に居る。
何も言わなくても、傍に居るから」
絶対に言いたくないけど認めざるを得ない。
私はあの言葉に少なからず救われた。
人間なんて大嫌いだった筈の心。
そんな私の傍にいるなんて言った青い存在。
多分、私にとって大事な人とは。
「・・・・・・」
「君は何も言わないんだね」
「・・・は?」
「皆はこう言うよ、『絶対に認めてくれる』って」
「そんな無責任な言葉、私は言わない。
こういうのは他人がとやかく言って良いものじゃないし・・・」
「そんな事を言ったのは君が初めてだよ」
「私は貴方の抱えている問題も悩みも知らない。
そんな表情をしている理由さえも。
だから私から貴方の欲している答えを言う事も出来ない」
「・・・っ」
レンの端正な表情が一瞬歪む。
灰音はそれに気付いたが淡々とした表情を変えなかった。
「お使いが羨ましいと言ったその言葉の真意すらも知らないけれど、それでも私が知っている事が一つある」
「・・・?」
「貴方、こうして私に道案内をしてくれる。
とりあえずそれをしてくれたら私は貴方に感謝するし頼りになる存在と思うわ」
「・・・・・・!」
青い瞳が瞠目するその姿を見て灰音は一瞬瞼を伏せる。
・・・本来なら私という他人が言うのではなくもっと彼に近しい人間が言うのが一番良いのだろうけど。
そう灰音が思っているとレンの口が開いた。
「・・・名前」
「・・・ぇ、」
「名前を教えてくれないかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・名前?」
突如言われた問いに灰音は青灰色の双眸を瞬かせる。
「まだ名前を聞いていなかったからね。
オレの名前はレン、―――神宮寺レンさ」
「・・・草薙、灰音」
ただ名前を言っただけなのに、その時のレンの表情は灰音が見た表情の中で一番彼らしい、と思えるモノだった。
「良い名前だね。
・・・ああ、この家がそうだよ君の目的地」
「・・・・・・有難う。おかげで助かったわ」
「此方こそ楽しかったよ、君との時間はなかなかにスリリングだったし」
「・・・それ褒めているの?」
胡乱気に返す灰音に微笑を浮かべるレン。
二人はいくつか言葉を交わすと、自然にかの目的地の門前にて別れたのだった。
救われる言葉
やっと自己紹介、だと・・・!?
どれだけ時間がかかってるんだと言われても可笑しくない。
笑えないよホントに(汗
20130105