巡ッテ廻ッテ乙女ト青 | ナノ
「灰音!灰音聞いてくれ!」
「・・・・・・五月蝿い、去ね」


突如訪れた幼馴染に灰音は今日も今日とて冷たく返す。
一体全体先日のしおらしさは何処へ。


「灰音、今日の朝じいに聞いたのだが、そろそろ産まれるらしいんだ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・は?」

色々飛躍した内容に灰音はこの時、文字通り年相応の表情を真斗に向けた。
数年後、真斗曰く「写真に残しておきたかった」とぼやく事になるのだがそれは又別の話である。



  ♪



「・・・・・・色々聞きたい事は山程あるんだけど、とりあえず誰が?」
「俺の母だ」
「・・・・・・成程ね。
その言葉で漸く話が分かったけど、貴方その単語が無かったら全然話が分からないわよ」
「うむ・・・すまない、興奮していた」
「要は弟妹が出来るって事でしょ?
・・・一回り離れた兄弟・・・ま、精々甘やかさないようにね」

青灰色の双眸を真斗に向けると重々承知していると言わんばかりに重々しく首を振る幼馴染に灰音は一抹の不安が過ぎる。

(・・・・・・忠告は無駄かもしれないわ)

妹か弟か知らないが、確実に甘やかしそうだ。
言い換えれば溺愛。
構いすぎて性格が歪んだりして。
もしそうなったらどんな反応をするのか、想像に難くない。

「・・・そういえば、予定日っていつなの?」
「来週だ。
妹だと聞いたから同じ女性同士、灰音にも紹介する故その時は宜しく頼む」
「ああそう妹なの・・・・・・・・・・・・え?」

二度目の絶句。
灰音は思ってもいなかった言葉に反応が遅れるも、しっかり反論した。


「待って何で其処で私を紹介するの?」
「何か問題があるのか?」
「何か、も何も大有りでしょ」


何を言ってるんだ当然だろう、と言わんばかりの表情に灰音は口角が引き攣るのを自覚した。


「貴方、私に日頃何言われているのか理解しているの?」
「灰音なら善悪の分別がついていない子供にそんな言葉は言わないだろう」
「・・・・・・・・・」

その妙な信頼に灰音はどう反応したら良いのか分からず、押し黙る。
此処でどんな反応を返せば正解なのだろうか・・・。


「・・・せめてある程度言葉を解せる位になったら、考えるわ」


真っ直ぐに向けられる信頼や好意は苦手だ。
捻くれた言葉の掛け合いなら前世で死ぬ程やってきたのに、未だ慣れない。

・・・いつか慣れる日が来るのか、分からないけど。

   コウノトリの来訪

(・・・そういえば真斗、子供ってどうやって出来るのかしら?)
(・・・・・・え?)
  

という事で第3章開幕です。
今までシリアスだったので今回は趣向を変えていきたいと思います。
最後の台詞ですが、この流れで小話に続けば良いなって思ってます。
・・・時間軸が微妙にズレていますが。

補足
「去(い)ね」→漢字の通り去れという意。

20120927