人間なんて、興味が無い。
だから私に関わらないで。
なのに、どうして。
「―――・・・」
あれから更に月日が経った。
あの青髪少年は相変わらず来る。理解出来ない。
優しくした記憶などないのに。
灰音の骨折も完治して以降、神社の仕事として白衣緋袴の巫女装束を着用し、簡単な仕事を任されていた(養父の無言の圧力に屈した結果である)
背中の半ばまである蒼銀色の長い髪は白い元結により、うなじの後ろで軽く結われているその姿は、雰囲気も相俟って、儚げな存在に見えた。
現在九歳になる灰音は虚空を見つめ、ぼんやりとしていたのだが。
その実、後ろの気配を探っていた。
「・・・・・・」
何かいる。それも複数。
射抜くような視線に灰音は内心溜息をついた。
前世では怨まれたりするようなことをしたこともあったが、今の世界でそのようなことをした記憶は一切無い。
だとするならば。
「・・・誰だ」
真斗や養父に見せる顔つきや声でなく、何もかもを拒絶するような声音で背後に向けて発した。
一瞬、ザワリと気配が揺れてた。
灰音はそれらに背を向けたまま、思考を巡らせる。
「・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・見付かっては仕方あるまい。
しかし小娘、お前は何者だ?」
「・・・・・・人を散々観察・・・否、監視していた人間のセリフとは思えないわね」
数日前から感じていた視線。気配。
前世の経験が無かったらきっと分からなかっただろうモノ。
「むむっ・・・まぁ良い」
(良いのか)
「小娘、一つ言っておくぞ!
坊ちゃまにもう二度と近づくでないぞ!!」
「・・・・・・・・・・・・は」
そう言って去っていく気配に灰音は初めて其処で振り返る。
しかし、其処にはもう誰かの痕跡は無く。
坊ちゃまが誰なのか理解できないまま、灰音は疑問符を飛ばす事になった。
それが約2週間前のことである。
♪
そんな出来事をすっかり忘却の彼方に追いやっていた灰音なのだが。
事件は起きた。
「馬鹿灰音!れ、れーつかん!」
「・・・・・・・・・」
「灰音なんか・・・大嫌いだ・・・!」
灰音は無表情で見事な捨て台詞を吐いて走り去っていく真斗を追う事も無く、一歩も動かずにただ見つめるという、何処か奇妙な光景が神社で繰り広げられていた。
脱兎の如く見事な走りっぷりを披露してくれた真斗に灰音は一つ溜息をついた。
・・・又何か変な言葉を覚えてる。
というよりれーつかんって何だ、冷血漢の間違いだろう。
否、その前に自分は女だ。
真斗が一方的に怒り、飛び出した原因はひとえに灰音の真斗に対する態度であった。
人間に興味無い彼女の態度は実に素っ気無く、冷たいもので。
流石に我慢の限界が来たのか、真斗は今回の暴挙に出たというわけである。
最も、様々な物が欠けて希薄な彼女にとって、今更人間関係に亀裂が走ったところで痛くも痒くも無かったのだが。
(・・・これで漸く静かになる。
まさかとは思うけど、もう二度と会おうと思わないでしょうね・・・)
来ないことを祈る。
思ったより長かったが、縁が切れた。
あれだけ冷たい言葉や態度をとっていたら流石にもう関わりたいとは思わないだろう。
・・・それよりも、またあの視線が付きまとっていることの方が気になる。
二週間前にも感じていた、視線と気配。
あの青髪少年が走り去って行ったのと殆ど同時にソレは色濃くなったように感じる。
「わしの忠告を受け取ったようで安心したぞ、小娘」
「・・・・・・・・・」
二週間前にも聞いた声が再び耳に響く。
今度は後ろを振り返ることで灰音の目にその姿を一目見ようと、足をズラした。
彼女の裏の顔
じいの口調ってどんなんだったっけ・・・。
20120401