白百合咲く頃、鶴ぞ鳴く | ナノ
!他連載『乙女』要素有



異例中の異例、刀剣女士。
過去の記録を紐解いてもその存在は現在においてただ一振りだけだという。

半端な審神者に引き渡すのも、ましてや下手に情報を明け渡す事で要注意されている本丸が更に暴走しその刀剣女士を顕現させようと躍起にさせるのも、という事で。
自分に全てを押し付けようという魂胆に銀髪の青年は嘆息した。

「つーことはなんだ?
お前ら、自分達の手に余る刀を蘇らせちまって、俺みたいな罪人と一緒に監視し、後はその刀の情報を得ようとしているっつー事か?
どんだけ自分勝手な話だよその刀にも申し訳ねえとは思わねえの?
一応その刀剣女士も神様なんだろ?
神様に対して無礼だとかは思わなかったわけ?」

言い方はぶっきらぼうだが銀髪の間から覗く夕焼け色の双眸に宿る剣呑な光に気付いている役人は苦笑を禁じ得ない。


―――なかなかどうして。
話をつい先程聞き、件の刀剣女士にもましてや刀剣男士にすらも会っていないのにも関わらず感情移入をするとは。
人の身を、血肉を得たとはいえ所詮本体は刀だと、物だと切り捨てる人間もいるというのに、この男は戦犯とは思えない程器が深いようだ。


「・・・それを言われてしまっては此方としても申し開きは出来ませんね。
まどろっこしい言葉は抜きにしましょう。
貴方がこれを拒否する道はありません、否が応でも審神者になって頂きます。
―――ああ其処の君、彼女を呼んで来て下さい」

銀髪の青年から漏れ出す殺気に気付いているがあくまでもそれは牽制。
本気で殺すといったような事はしないという確信の元、政府の男は微笑を崩すような事はしなかった。



・・・そして呼ばれた男が再び部屋の扉を開ける時。
第一級戦犯、白夜叉と称される男とあらゆる意味での特殊な刀剣女士が邂逅されたのだった。



  ■■



「―――かの織田信長公の妹君、お市様が使用していた双頭薙刀の『散華』と申します。
どうぞ、よしなに」


華奢な女の体。『絶世』『傾国』を体現した烏の濡れ羽色の長髪と相貌。
桜色を散りばめた白衣、袴は漆黒。よくよく見れば足袋を含めた足元は全て黒い。
・・・半襦袢らしき衣装と袴の間から覗く色白の脚が異様に眩しく感じたのは気のせいだと信じたかった。

(あーくそ、そういうのにはとんと縁が無かったからなあ。
女といえばアイツ位だけどどっちかって言うと妹分みたいな感じだし・・・)

脳裏に己と同じ銀髪の少女を思い起こす。
置いていかれるのは嫌だと言って自分や同志達を散々困らせた挙句、結局女の命と称される蒼銀色の長髪を目の前でばっさりと切ったバカな女。
しかも鋏ではなく、日本刀で思い切り切ったから長さもばらばらで思わず発狂してしまった事を思い出す。
・・・結局あのまま一人で暴走されるより目の届く所で行動してくれた方が安心だという事で戦争に参加していたけれど。

―――最後に見た、世界に絶望し生気を失った青灰色の瞳が、今も己を責めている。


「・・・審神者様。いかがされました?
ご気分が優れないようですが」

「・・・・・・あ?なんだおめーか・・・・・・」

散華。
自分の、曰くつきの初期刀。双頭薙刀。
刀だけかと思っていたら詳しく聞くと短刀から大太刀は勿論、槍に薙刀もあるという。
現在において四十振り以上存在すると報告されている付喪神の中で唯一、女の肉体を持つ付喪神。


「・・・悪かったな。もしかして俺、魘されてた?」
「はい。無許可で部屋に入ってしまって申し訳ありませ、」
「あー良いって良いって、そーゆうの俺苦手なんだよ。
主従関係とか肩っ苦しいの。どうせならおにいたまって呼んでくれない?」
「・・・・・・」
「おい普段従順のくせに何でこういう時無言で反抗すんの?」
「身の危険を感じましたので。
後そういう時は急所を思い切り本体で斬っても良いと許可が、」
「物騒な事言わないでくれる!?俺、主!しかも怪我人!!
一人で歩くのもしんどいんだぞもっと労われぇぇええええ!!」


・・・案外存外、付喪神と夜叉の関係は良好のようだと政府の遣いもといこんのすけは漠然と悟った事を主従の二人は知らない。

20151012