白百合咲く頃、鶴ぞ鳴く | ナノ
「人を人に還す事ができるのは人の首を斬る鬼ではない。
人の魂を奪う死神でもない。
人の罪を斬り、その魂を救う人だけだ」

己にそう説うた男―――公儀処刑人、またの名を首切り役人は己の死刑前日に、何の気まぐれか淡々と言っているのを銀髪の男は言葉を返すわけでもなく、ただただ聞いていた。

肩書きこそ物騒極まりないが声音だけ聞いていると己の中にある確固たる信念を感じた。
銀髪の男は徐に赤い瞳だけを処刑人に向ける。
正直指一本さえも動かす体力が無いのだ、今の己には。
いっそ意識が飛んでいない事を褒めてほしい位だと内心で舌打ちするが結局それをする事はないまま時だけが過ぎる。


「―――・・・それで?俺にそんな話をしてどうするつもりだ爺さん」
「お前を斬る気は毛頭無い。
だから逃がそうと思うが―――状況は厳しい。
が、一つ確実に生き延びられる可能性がある。
お節介だと思うだろうがまあ、物は試しだお前さん、ちょいと検査させて貰う」
「・・・・・・あ?検査?」



  ■■



「・・・んで?何でこーなったわけ?」
「第一級戦犯から神職の審神者にジョブチェンジしただけだ」
「なにその華麗なる転職!?銀さん一ッッ言もそんな事聞いてねェんだけど!?
オイこの糞ジジイ俺の目を見てちゃんと説明しやがれ!!」

「さっき言っただろうが」
「何処が!?説明らしい説明があったか!?寝ぼけてんじゃねェぞこのクソジジイ!!」

ぎゃあぎゃあとテンポ良く進む会話だが如何せん内容の方は一進一退している。
銀髪の男が内容を把握するのはもう少し先のようで、三十分程説明に費やす事になった。



「・・・つかはにわって何?」
「埴輪ではなく"さにわ"だ審神者。
ちなみに漢字だとこう書く」

首切り処刑人もとい池田夜右衛門は溜息混じりに『審神者』と紙に書く。
別に彼を無知だと思っていない。
溜息を吐いた理由は彼が予想以上に噛みついた所為で話が脱線しまくったが此処でようやく説明らしい説明が出来た故のものである。

「・・・審神者とは眠っている物の想い、心を目覚めさせ、自ら戦う力を与え、振るわせる、技を持つ者の事を指す」
「眠っているもの・・・?」
「ああ。俗に言う付喪神ってやつさ」
「・・・・・・あ?」
「その技によって生み出された付喪神『刀剣男士』と共に歴史の改変を目論み、過去への攻撃を企てる『歴史修正主義者』を倒す。
それが『審神者』の役目だ」
「おいおい、何いきなりオカルト話になって、」
「さっきの検査はその審神者の適性があるかどうかのものだ。
で、お前は見事適性だと診断された。
審神者の職業に就ける人間は少ない。
少なからず霊力やら神力がいるからな」
「・・・う、うそだろ」
「嘘なんてついてどうする。
この状況で大法螺を吹く程楽観的なものでは無いだろう」
「・・・・・・いやいや!!だって付喪神って!
仮にも神様だよね!神様を下っ端扱いって!パシリにして大丈夫!?
祟ったり呪われたり罰当たりとか言われたりしないよね!?」
「・・・お前、人違いじゃないな?
確認するぞ、お前は伝説の攘夷志士、白夜叉で間違いないな?」
「合ってるよ!!つかその名前で呼ばないでくれる!?
いや!その前に俺の許可ナシに何勝手に検査なんかしちゃってんのぉぉぉおおおお!!?」


「説明が終わったな。
じゃあ次は『時の政府』の本部に行って初期刀を貰って―――」
「おいいいぃぃぃぃいいい!!いい加減にしろ!!何だ今度は『時の政府』ってぇええええ!!」


・・・彼が話を全て飲み込むのはまだ当分先の話である。



  ■■



場所は件の『時の政府』の一室。
其処に、銀髪の青年といかにも役人といった服を纏った一人の青年がいた。


「このような罪人・・・それも第一級戦犯がまさか適性合格とは。
世の中よく分からないものですね」

第一級戦犯。白夜叉。
それが銀髪の男の肩書きであり呼び名だ。
勿論本名とは別だが彼は今の所名乗るつもりは無かった。
・・・というよりもただ単純に今の彼にそんな余裕は無いというのが実情である。

「・・・・・・」

『時の政府』『審神者』『刀剣男士』
次々と新たな単語が出てきて彼の許容限界はそろそろ突破しそうだった。

「本来なら五振りの初期刀から選んで頂くのですが・・・異例には異例をぶつけましょうか」
「・・・あ?異例?」
「言葉通りですよ」

薄ら笑いを浮かべ、此方を見下しているかのような言葉遣い。
白夜叉と呼ばれた男は銀髪の間から覗く赤い双眸をゆっくりと細めた。


「以前より私達政府も審神者様が仕事をより円滑に進められるよう、いくつも研究していたのですがつい先日『刀剣女士』の顕現に成功しまして・・・貴方には彼女の主になって頂きます」
「・・・・・・『刀剣女士』?」

例の付喪神とやらは性別が男のみだって聞いていたんだけど。
え?女?どういう事?

銀髪の男は早くもトントンと進む展開にただただ首を傾げる事しか出来なかった。

20151011